点の重さ

 南湾フーズの棚卸確認会議に、冷蔵倉庫会社の石動遼子が同席するのは場違いに思えた。

 遼子は入社三年目の在庫担当である。会議室には食品会社の役員、銀行員、監査人が並び、中央の資料には冷凍果汁二百七十四トン、評価額三億一千万円とあった。

「倉庫会社の確認印もあります」

 南湾フーズの経理部長がページを示す。確かに遼子の会社の角印が押されていた。

「印は本物です。でも数字は違います」

 遼子は鞄から複写式の棚卸確認書を出した。冷凍庫で数え直した夜、息が白くなり、手袋の上からでもペン先が震えた。桁を間違えれば倉庫会社が賠償を問われるため、彼女は缶の番号を一本ずつ声に出し、同僚に復唱させていた。

 年度末、南湾フーズから届いた用紙には、あらかじめ「274.0t」と印字されていた。現物はドラム缶百三十七本、一本二百キロ。遼子は赤線で誤記を消し、「27.40t」と書き直した。上司の指示で、訂正箇所に角印をまたがせている。

 役員用の写しでは赤線が消え、小数点だけが一桁右へ動いていた。角印は残っているが、本来またいでいた「27.40」の点から、印影が不自然に離れている。

「画像処理の際に汚れを除去したのだろう」

 経理部長は言った。

「小数点は汚れではありません」

「現場の数え間違いでは?」

 遼子はドラム缶の入庫番号一覧を差し出した。百三十七番で終わり、その後は空欄だ。

「二百七十四トンなら、同じ缶が千三百七十本必要です。倉庫の一区画全部を使っても入りません」

 遼子の上司は会議室の外で待っていた。取引を失うかもしれない、それでも数字だけは持ち帰るな、と送り出してくれた。

 銀行員が資料の融資条件欄を指でなぞった。在庫評価額が二億円を下回れば、追加担保が必要になる。

 経理部長は遼子の複写を取り上げようとしたが、監査人が先に押さえた。

「原本照合が終わるまで動かさないでください」

 社長は決算承認書の上で印鑑を握り、しばらく朱肉に押しつけた。朱が縁からにじんでも、紙には下ろさなかった。

「棚卸資産の決裁は保留だ」

 その一言で、二百四十六・六トン分の利益が消えた。