ひとつの窯から

冬になると、煙突を塞ぐ家があった。

 ルクサ村の「炉税」は、煙の出る炉一つにつき月二枚。夫を亡くした家も、子どもだけの家も同額だ。払えない者は煮炊きをやめ、冷たい芋をかじって眠った。

 執政官オルフェが村へ来た夜、雪の中で煙のない家を見つけた。扉の内側では、老女が割れた鍋を抱いて震えていた。

「火を使えば徴税人に見つかります」

「火を消して集める税など、領地を凍らせるだけだ」

 翌朝、オルフェは炉税の札をすべて剥がした。

 代わりに示したのは「粉の二十分の一」だった。

 水車小屋で挽いた粉は、各家が冬越し用の袋を先に確保する。残った販売用の粉だけ、二十杯につき一杯を共同倉へ入れる。その粉は税として領主館へ運ばず、村の共同窯で焼き、火を持てない家へ配る。

 水車番が眉を上げた。

「粉を隠す者が出るぞ」

「量った数は、この壁の升目に本人が書く。隣人ではなく、自分の名で」

「嘘を書いたら?」

「今年は罰しない。共同窯のパンが足りなくなるだけだ」

 罰がないことに、かえって誰も声を出せなかった。ごまかした一杯は役人を困らせるのでなく、隣家のパン一個を小さくする。その因果だけが、壁の升目にはっきり見えた。

 最初に升目へ数字を書いたのは、村一番の粉商だった。

「二百四十杯。税は十二杯」

「多く書きすぎでは?」

「去年、うちの倉が燃えた時、村中から粉を借りた。帳尻を合わせるだけだ」

 次に農夫が一杯、宿屋が三杯と記した。老女は納める粉を持たなかったが、窯の灰を毎朝掃くと言った。

 オルフェは誰にも役目を命じていない。大工は余った煉瓦を積み、子どもたちは薪を拾い、粉商は捏ね台を寄付した。税が誰かを監視する鎖ではなく、火を分ける仕組みになったからだ。

 完成の日、共同窯の扉が開いた。焼けた小麦の香りが、煙のなかった家々まで流れていく。

 最初の丸パンは、あの老女へ渡された。彼女は半分に割り、残りを粉商の幼い息子へ差し出す。

 窯の上には新しい文字が刻まれていた。

『二十杯のうち一杯。火は一軒のものにしない』

 その晩、村のすべての煙突から、細い白煙が上がった。