わたしを勝ち取らないで

 両親が事故で亡くなってから、親戚はわたしを取り合った。

 母の姉は言った。

「妹の子だから、私が育てる」

 父の弟は言った。

「名字も学校も変えず、こちらの家で暮らすべきだ」

 祖父母は言った。

「私たちが一番長く面倒を見てきた」

 家庭裁判所の待合室で、大人たちは収入、部屋数、通学時間を比べた。

 わたしは隣にいた相談員へ聞いた。

「勝った人の家へ行くんですか」

「勝ち負けではないよ」

 でも、みんな「こちらのほうがふさわしい」と言っていた。

 面談の日、わたしは紙を一枚持っていった。

〈わたしを勝ち取らないでください〉

 大人たちが静かになった。

〈おばさんの家は学校に近いです。でも、仕事で夜遅いです〉

〈おじさんの家には同い年のいとこがいます。でも、わたしはまだ一人で眠りたいです〉

〈おじいちゃんとおばあちゃんの家は安心します。でも、二人の病院も心配です〉

 どの家にも、好きなところと困るところがあった。

〈一人だけを親にしたら、ほかの人へ会いたいと言いにくくなりそうです〉

〈両親を亡くしたのに、親戚まで減らさないでください〉

 母の姉が泣いた。

「あなたに選ばせたくなくて、私たちが争ってしまった」

「もう選ばされてるよ」

 わたしが言うと、誰も言い返さなかった。

 話し合いは一日で終わらなかった。

 最終的に、平日は学校に近い母の姉の家で暮らすことになった。父の弟は、両親が残したお金の管理と、月二回の週末を担当する。祖父母の家には、長い休みに泊まる。

 予定変更は大人だけで決めず、わたしも話し合いに入る。

 最初の月、三つの家すべてに歯ブラシが置かれた。

「どれが本当の家?」

 学校の友達に聞かれた。

「今は、三つとも練習中」

 答えると、自分でも少し笑えた。

 大人たちは時々、まだ張り合う。

「うちでは野菜を食べた」

「こちらでは宿題を自分からした」

「祖父母の家では九時に寝た」

 そんなとき、わたしは紙を見せる。

〈勝った人から、わたしの家族を一人減らします〉

 全員、すぐ黙る。

 わたしが欲しかったのは、一番ふさわしい一人ではなかった。

 両親がいなくなったあとも、残った人たちが互いを敵にせず、わたしの周りにいてくれる暮らしだった。