カーテンを半分ずつ
夕季は朝日で起きたい。妹の碧は遮光カーテンがないと眠れない。姉妹で一部屋を分けると決めたとき、夕季は白い薄布を、碧は紺色の厚布を買ってきた。窓は一つしかないのに。
同居して二週間、カーテンレールには左右で違う布が下がっていた。友達に見せたら笑われる、と碧は言い、笑われても換気はできる、と夕季は返した。
その夜、隣の部屋から男の怒鳴り声がした。前から壁越しに聞こえていたが、今日は何かが倒れる音も混じった。碧はイヤホンをつけようとし、夕季は壁に耳を当てた。
「関わらないほうがいい」
碧が低い声で言った。
「聞こえないふりはできない」
「聞こえないふりじゃなくて、自分を守ってるの」
夕季は返事ができなかった。自分の正しさで妹を怖がらせたくはなかった。怒鳴り声がまた響く。今度は女性の声が、小さく「やめて」と言った。
碧が立ち上がった。遮光カーテンを片側から外し、夕季に渡した。
「外から見えないようにして。管理会社に電話する」
「警察じゃなくて?」
「まず住所と部屋番号を確認する。間違えたら困る」
「間違えないほうが大事なの?」
「助けるなら、続けられるやり方がいい」
夕季は薄布も外した。二人でカーテンを重ね、ベランダ側の窓に洗濯ばさみで留めた。外から部屋の中が見えなくなった。碧は震える指で管理会社に電話し、夕季は玄関のドアチェーンを確認した。
数分後、廊下に足音が増えた。声は止んだ。二人はカーテンの下で並んで座った。夕季は朝日が好きで、碧は暗さが好きだ。その違いは消えなかった。でもその夜だけ、二人は同じ布を持ち上げ、窓を隠した。
翌朝、管理会社から確認の電話が来た。夕季は事実だけを伝え、碧は通話のメモを取った。怖かった、とはどちらも言わなかった。レールに戻したカーテンはまた左右で違う色になったが、洗濯ばさみだけは窓辺に残した。次に必要になったとき、探さずに済む場所に。
夜になっても、隣室の生活音は戻らなかった。静けさが解決かどうか、二人には分からない。分からないからこそ、メモは冷蔵庫に貼った。