ゴールの外側

 父ちゃんの仕事着は、町でいちばん目立つ。蛍光色の上着に、膝まである長靴。ごみ収集車に乗って、朝から町じゅうの「いらないもの」を集める。

 二年生の運動会にも、その格好で来た。

「理央のお父さん、ごみの匂いする」

 友達に言われ、ぼくは反射的に答えた。

「あれ、知らないおじさん」

 父ちゃんは少し離れたところで、紙コップの麦茶を持っていた。聞こえなかったと思った。

 でも次の年から、父ちゃんは校庭に入らなくなった。仕事の途中、道路を挟んだ金網の外に立つ。ぼくが走っても手を振らない。目が合うと、帽子のつばを下げた。

 きっと父ちゃんも、ぼくを息子だと知られたくないのだ。

 そう思うと腹が立ち、ぼくも見ないふりをした。

 六年生の運動会。最後の種目はクラス対抗リレーだった。ぼくはアンカーで、朝から金網の外を何度も探した。蛍光色は見えなかった。

 仕事なんだ。どうでもいい。

 そう言い聞かせたのに、バトンを受けた瞬間、胸の中がからっぽになった。最初のカーブで足がもつれ、派手に転んだ。バトンが白線の外へ転がった。

 後ろの選手が追い抜いていく。もう無理だと思ったとき、金網の向こうから声が飛んだ。

「理央! 落としたもんは、拾えばまだ使える!」

 父ちゃんだった。収集車を道路脇に止め、汗だくで金網にしがみついていた。

 ぼくはバトンを拾った。びりになった。でも最後まで走った。ゴールしたあと、みんなの前を横切って金網まで行った。

「どうして外にいるんだよ」

 息を切らして言うと、父ちゃんは困ったように笑った。

「お前、友達に知られたくないんだろ」

「父ちゃんこそ、ぼくを応援したくないんだと思ってた」

 二人とも黙った。

 父ちゃんは、二年生のあの日を覚えていた。ぼくも、父ちゃんの麦茶が少しも減らなかったことを覚えていた。

「ごめん」

 同時に言ったので、今度は二人で笑った。

 閉会式のあと、担任が家族写真を撮ってくれた。父ちゃんは「仕事着だから」と逃げようとしたけれど、ぼくは蛍光色の袖をつかんだ。

「目立つほうが、すぐ見つけられる」

 写真の真ん中で、父ちゃんは帽子を脱いだ。ぼくの膝には転んだ傷があり、父ちゃんの手袋には町の汚れがついていた。

 どちらも隠さなかった。

 その写真では、ゴールの外にいた父ちゃんが、誰よりぼくの近くに立っている。