フォルダ名は日付だけ
万里は、別れた夜から写真アプリを開けなくなった。
表示される「二年前の今日」が、毎朝勝手に幸せだった頃を選び出すからだ。
泉美は同じ会社の開発チームで、障害ログを消さない人だった。
「全部削除したい」
「あとで困る」
「写真に監査は入らないよ」
「家賃の振込、家具の領収書、退去時の傷。証拠は混ざってる」
恋愛をデータとして扱われた気がして、万里は少し腹を立てた。泉美は気づいても謝らず、ノートパソコンを机の中央へ寄せた。
二人で検索条件を決めた。領収書、契約、送金、修理。必要な画像だけを抜き出し、共有財産というフォルダへ移す。次に、恋人が写った写真を年ごとにまとめた。
「これも消す?」
海辺で笑っている自分を、万里は長く見た。
「消したら、私までいなかったことになりそう」
「じゃあ消さない」
「でも毎日は見たくない」
「見えない場所に置けばいい」
泉美は古いUSBメモリを机へ置いた。万里は、逃げているようで嫌だと言った。泉美は、保留は逃げではなく状態だと言った。どちらの言葉も相手には完全には届かなかった。
写真をコピーする間、進捗バーが青く伸びた。二人は黙って、紙の領収書を月別に並べた。コピーが終わると、万里が写真アプリの自動表示を切った。泉美はUSBを小さな封筒に入れ、口を閉じる。
「名前、どうする?」
「思い出、とか?」
「検索しやすくない」
「今は検索したくない」
結局、フォルダ名は別れた日の日付だけにした。
万里は封筒を押し入れの一番奥へ入れた。泉美は、その前に季節外れの扇風機を置いた。簡単には取り出せないが、捨ててもいない。
作業が終わると、泉美は自分の充電器を鞄へしまった。
「帰るね。ログアウトして」
泊まってくれるとは言わない。その距離が、万里にはありがたかった。今夜を埋める役目まで、友人に渡したくはなかった。
玄関まで送った後、万里は一人で机へ戻った。真っ白になったデスクトップの中央に、ごみ箱だけがある。
彼女はそれも空にし、パソコンのふたを閉じた。