ブロックリストから救出
《批判した人を片っ端からブロックする柊木藍》
《救難DMまで無視したって本当?》
《中にいるの、藍を粘着してた“ゴリ押しゴン”だろ。助けるわけない》
巨大ミミックの腹には、配信者が一人、生きたまま取り込まれていた。
歯の隙間から伸びる手が、救難灯を振っている。外から殻を割れば内部の酸が噴き、捕食された者も溶ける。討伐班は手を出せずにいた。
柊木藍は自分の端末を開く。
画面には、何百件ものブロック済みアカウント。その最上段に、毎日罵倒を送り続けた“ゴリ押しゴン”の名前があった。
《ほら、やっぱりブロック済み》
《解除して謝罪させる気か》
《救助よりレスバ優先とか終わってる》
藍は名前を長押しし、表示された赤い項目を一度だけ選んだ。
【このユーザーを現在の空間からブロックしますか?】
「する」
ミミックの腹が、空振りしたようにへこんだ。
次の瞬間、安全区画の床へ“ゴリ押しゴン”が吐き出される。酸に焼けた上着だけが残り、本人の身体は転送保護膜に包まれていた。
藍の技能《空間遮断》。指定した配信アカウントを、同一ダンジョンから強制退出させる。彼女が荒らしをブロックしていたのは、コメント管理だけではない。緊急時に名前を一瞬で選べるよう、危険行為を繰り返す配信者を登録していたのだ。
《え、ブロックリストが救難名簿?》
《ログ開示きた。救難DMは受信二秒後に庁へ自動転送されてる》
《過去の“無視”十二件、全部そのあと対象が強制帰還してる》
《ゴン、生命反応あり。酸傷も保護膜で停止》
藍は倒れた男へ治療薬を置いた。
男は震える声で「俺、あんたのこと、ずっと」と言いかける。
「謝罪は回復してから。今は喋ると肺が痛む」
藍はそれだけ告げ、ミミックへ背を向けた。救助対象が消えた怪物は、討伐班の一斉攻撃で崩れていく。
《好き嫌いと救助を分けた》
《ブロックされて当然の相手まで助けたのか》
《プラットフォーム側の調査結果出たぞ》
配信画面に運営印の通知が表示された。
【公式認定:《空間遮断》を緊急救難機能として採用――柊木藍を初代運用監督者に任命】