ミュートの外側

 連城奈月が部の通話へ入ると、話していた全員が同時に黙った。練習表には彼女の名だけ灰色で、《人数合わせ》と書かれている。倉科智花は、奈月が好成績を出すたび回線を切り、失敗した場面だけを部内動画へ載せた。県選抜の推薦枠は一つ。今日の決勝が、最後の評価試合だった。

《県予選 決勝ラウンド/音声記録開始》

「連城、右へ出て」

 部長の倉科智花に言われ、連城奈月は一人で通路へ入った。味方の位置表示は、全員反対側へ動いている。

「援護は?」

「自分で考えて。レギュラーになりたいんでしょ」

 敵が三人現れた。奈月は一人を止めたが、残りに倒された。

 直後、チーム用の通話がミュートになった。画面の端では、智花たちが笑うスタンプを押している。練習でも同じだった。連絡を外し、失敗だけを切り抜き、《奈月を外せ》という投票を回す。

 それでも奈月は観戦画面で敵の癖を読み、復帰後、誰も見ていなかった裏道を守った。最後の十秒、相手の奇襲を止め、試合は逆転した。

 勝利表示が出ると、智花はすぐ全体通話へ戻した。

「今のは私の作戦です。連城には囮を任せました」

 公式戦績には、奈月が一人で三地点を守り、味方の被害を最小にした数字が残った。運営審判は勝因欄へ《連城選手の状況判断》と記した。智花はその画面を閉じ、「部内では私の指示ということにして」と後輩へ念を押した。

 表彰前、顧問が選手を控室へ集めた。机には大会運営の封筒が置かれている。

「県リーグは、いじめと八百長防止のため、選手通話を自動保存している」

 スピーカーから、試合中には聞こえなかった声が流れた。

『奈月に敵を集めよう。戦績を落とせば、次から外せる』

『助けるふりだけして、直前で引いて』

『負けても連城のせいにできるから』

 智花の声だった。ミュートされたのは奈月側だけで、記録装置までは止まっていない。

「冗談です。勝ったんだから問題ないでしょう」

 智花が笑おうとする。

 顧問は部長章を机へ置かせた。大会運営から届いた処分通知には、競技妨害と継続的な排除行為が記されている。

「倉科は登録停止。県選抜への推薦も撤回する」

 顧問は部長章を奈月の前へ滑らせた。

「次の代表主将は、最後まで味方の勝利を諦めなかった連城奈月だ」