メーターは嘘をつかない

 犬飼隆之は、乗って三分で行き先を変えた。

「駅じゃない。東口の会館だ。普通は察するだろ」

 運転手の戸叶初枝は復唱し、ナビを切り替えた。

 さらに五分後、「やっぱり中央ホテル」と言い、渋滞へ入ると犬飼は舌打ちした。

「遠回りして料金を稼ぐ気か。新人か?」

「二十五年目です」

「なら、なお悪い」

 犬飼は後部座席で靴を脱ぎ、前席の背へ足を当てた。初枝が危険なので下ろすよう頼むと、「客に命令するな」と笑った。

 ホテルへ着くと、メーターは三千八百六十円を示した。初枝は二度の目的地変更が記載された運行明細も印刷した。

「こんな紙、どうにでも作れる」

 犬飼は千円札を一枚だけ置いた。

「迷惑料を引けばこれで十分だ」

「恐れ入りますが、不足しています」

「払わない。会社にも市にも話を通す。お前みたいな運転手は明日から乗れなくしてやる」

 初枝が無線へ手を伸ばすと、犬飼は先に警察へ電話した。

「悪質なタクシーです。監禁されて、不当料金を請求されています」

 ホテルの車寄せには人が集まり始めた。犬飼は声をさらに大きくし、ドアを開けてもらえなかった、駅までと告げたのに勝手にホテルへ連れてこられた、と周囲にも訴えた。実際には到着時から後部ドアのロックは解除されている。

 十分後、警察官が二人来た。初枝は反論を重ねず、運転席の掲示を指した。

《安全管理のため、車内音声および走行経路を記録しています》

 警察官が端末を確認する。最初の変更、二度目の変更、「これで十分だ」という声。地図には、指示どおりの経路が時刻つきの一本の線で残っていた。

「編集だ。こんなもの証拠にならない」

 犬飼は声を荒らげたが、もう一人の警察官はホテルの防犯担当者から映像を受け取っていた。到着直後に自分でドアを開け、千円札だけを投げる場面まで鮮明だった。

 初枝は静かに言った。

「会社への苦情は、どうぞ。ただ、私は不足運賃について被害届を出します」

 警察官が犬飼の前へ手を差し出した。

「ではまず、無賃乗車の事情を署で伺います」