ログアウトしていない犯人
【10:00】大学共通科目・統計学オンライン試験開始。
【10:37】城代悠岳の画面に、監督システムから警告。
〈別ウィンドウへの切り替えを検出〉
【10:51】二度目の警告。
【11:00】試験終了。
三十分後、悠岳は研究室へ呼び出された。成績首位の室賀篤希と担当准教授が待っていた。
「試験中、解答サイトを開いた記録がある」
提示された画面には、悠岳の学生IDで検索サイトへ接続した履歴があった。室賀は「同じゼミとして残念です」と目を伏せた。
悠岳は処分書を見ず、ノートパソコンを開いた。
「端末のローカル記録も確認してください」
監督システムは画面を録画し、試験中の操作を端末内にも保存する。映像では、悠岳は一度も試験画面から離れていない。警告が出た時刻にも、カーソルは答案欄にあった。
准教授は眉をひそめた。
「なら、このアクセス履歴は何だ」
情報基盤センターの職員が呼ばれた。接続元を調べると、検索サイトへアクセスした端末は悠岳のパソコンではなく、図書館の共用端末だった。学生IDだけが悠岳のものになっている。
図書館の監視映像を確認する。
十時三十五分、室賀が共用端末へ座り、悠岳のIDでログインする姿が映った。悠岳は前日、共同研究用の端末でログアウトし忘れていた。そのセッションを室賀が利用し、試験中に解答を検索していたのだ。
【10:36】室賀、検索開始。
【10:37】監督サーバー、同一IDの二重接続を異常検知。
別ウィンドウ警告は、悠岳の操作ではなく、室賀の端末で起きた切り替えを誤って本人側へ通知したものだった。
さらに共用端末のマイク記録には、室賀の小声が残っていた。
『これで奨学金は俺に戻る』
室賀は「冗談だ」と言ったが、検索結果と自分の答案は、入力ミスまで一致していた。
准教授は悠岳の処分書を削除し、室賀の答案を無効にする。奨学金委員会へも即時報告された。
【14:22】城代悠岳の試験結果、正式確定。
【14:23】室賀篤希の学生アカウント、調査のため停止。
二つの通知が並んだ瞬間、最後までログアウトできなかったのは、悠岳ではなく犯人のほうだった。