ロボットの管理者権限
小学校のロボット発表会で、朱雀森梨香は息子の胸へ金色のリボンを付けた。
「うちの子、県大会優勝なの。お父さんも大手IT企業の開発部長だから、才能って遺伝するのね」
彼女は、隅で小さな搬送ロボットを調整する夕凪谷和佳の娘を見た。
「参加賞でも立派よ。ご主人は在宅でパソコンのお仕事だったかしら?」
和佳は「会社の技術を見ています」と答えた。
審査が始まると、梨香の息子のロボットは派手に動いたが、障害物の前で停止した。一方、和佳の娘の機体は、車椅子の児童へ教材を届け、机の高さに合わせて荷台を変えた。
特別審査員が会場へ入る。
梨香の夫・菊名原拓実は、その男性を見るなり背筋を伸ばした。
「夕凪谷CTO、本日はお越しいただきありがとうございます」
和佳の夫・夕凪谷玲章は、拓実の勤務する企業の共同創業者兼最高技術責任者だった。世界で使われる物流AIを設計し、会社の筆頭株主でもある。在宅勤務が多いのは、肩書が低いからではなく、世界中の研究拠点を自宅から統括しているためだった。
梨香は笑顔を凍らせた。
「拓実、開発部長ならCTOの次くらいよね?」
「部長は二十人いる。僕は夕凪谷さんへ月次報告を出す立場だ」
さらに審査員は、梨香の息子の制御コードに見覚えがあると指摘した。公開教材のサンプルを、作者名ごと削って使用していたのだ。息子は母に「完成品を買ってもらった」と正直に話した。
梨香は審査員へ詰め寄った。
「子どもの大会でしょう。親の手伝いくらい普通です」
玲章は息子を責めず、出品区分を〈参考展示〉へ変更した。
「失敗したことではなく、自分で作ったふりを続けることが問題です。次は本人が直せばいい」
最優秀賞は和佳の娘に決まり、玲章は障害児向け開発教室への支援を発表した。
梨香が和佳へ小声で言う。
「CTOの奥様なら、もっと目立つ機体を作らせればよかったのに」
和佳は、教材を受け取って笑う児童を見た。
「動く相手が審査員ではなく、必要としている人だったので」
玲章が受賞機の管理者権限を娘へ返し、拓実が上司へ一礼した瞬間、夫と子の“才能”で頂上に立ったつもりの梨香だけが、借り物のコードの前で顔面蒼白になった。