一ダメージの針

聖騎士ロセルが黒い剣を振り上げ、久遠寺メイカは錆びた針をその腕へ刺した。

《呪縛層:残り43》

攻撃が命中するたび一層解除。

対象本体には、武器攻撃力ぶんのダメージ。

《裁縫針》

攻撃力:1

武器分類中、最低値。

ロセルのHPは残り五十。呪縛は四十三層。伝説剣なら一撃で大きく削れるが、解除される層は一つだけだ。皆が火力を競った結果、彼は毎回、呪いより先に死んだ。

「雑魚武器で四十三回も当てられるか!」

仲間の魔法が飛ぶ。メイカはロセルの前へ出て、杖の軌道を針で逸らした。黒剣が肩を掠め、HPが赤くなる。

二撃、三撃。針は鎧を貫かず、隙間から肌へ一だけ届く。ロセルの目から黒い霧が少しずつ薄れる。

「殺してくれ」

二十層を切った頃、彼は自分の声で懇願した。

「簡単な方を頼まないで」

メイカは針を刺し続ける。縫い物をするように、同じ間隔で。ロセルのHPは十、呪縛は三。

仲間が息を止める。三回当てればHP七で解放できる。だが黒剣が暴走し、ロセル自身の胸へ向いた。

メイカは最後の三針を、剣を握る指へ打ち込んだ。

一。黒剣が止まる。

二。霧が剥がれる。

三。ロセルが膝をつく。

HP七。呪縛ゼロ。

討伐表示を待っていた画面に、白い回復欄が開いた。ロセルは敵性を失い、震える手でメイカの針穴へ治癒魔法をかける。

《ボス「黒騎士ロセル」討伐失敗》

《呪縛四十三層を解除》

四十回目で針は曲がり、メイカは指で真っ直ぐに直した。強い武器なら耐久を気にする前に戦闘が終わる。弱い武器には、最後まで同じ一を届け続ける根気が必要だった。

解放されたロセルは、自分の鎧に残る小さな針穴を数えた。

「四十三回、私を敵ではなく人として狙ったのか」

メイカは答えず、折れかけた針を裁縫箱へ戻した。次は傷口を縫うために使うつもりだった。

ロセルは回復後も針穴を消さなかった。それは倒されなかった証ではなく、急がず救われた回数の印だった。四十三の小さな傷は、一本の致命傷よりずっと重かった。

《生存者ロセルをパーティへ追加――最弱の攻撃だけが、敵と宿主を別々に数えました》