一人前の唐揚げ
都和が実家の食卓へ着くと、唐揚げはもう皿に分けられていた。
母の前に四つ、妹の梨央に三つ、都和には二つ。
「都和は気をつけてるものね」
母は悪気のない声で言った。
「梨央は昔から細いから、食べても平気」
二人が中学生のころから、食卓には目に見えない秤があった。成績は都和が上、体重は梨央が下。母はどちらにも「あなたのほうがまし」と言い、勝った場所を教えた。
梨央が自分の唐揚げを一つ、都和の皿へ移した。
「いらない」
「私もいらない」
「じゃあ戻して」
「お姉ちゃんが食べたら?」
母が笑った。
「梨央は優しいわね。都和も見習わないと」
都和は箸で唐揚げをつかみ、中央の大皿へ戻した。
「これ、誰の分でもないことにしよう」
「何を子どもみたいなこと」
「子どものころから続いてるから言ってるの」
衣から油が染み、皿の白い部分に丸い跡を作った。
梨央は黙って自分の三つも大皿へ戻した。そしてスマートフォンを取り出し、近所の定食屋の画面を見せる。
「ここ、持ち帰りできる。追加で頼もうか」
「そんなに食べるの?」
母の目が梨央の腹へ落ちる。
梨央は画面を伏せた。
「食べる量じゃなくて、選ぶ話」
都和はその言葉を受け取った。
「私は唐揚げ六個の弁当」
「私は三個とコロッケ」
「梨央は相変わらず変な組み合わせね」と母が言う。
二人は初めて、同時に笑った。母を笑ったのではない。自分たちが別々の注文を言えたことが、可笑しいほど新しかった。
都和は店へ電話をかけた。母が「家にあるのに」と繰り返す間に、名前と注文を伝える。
受け取りまで十五分。姉妹は席を立った。
玄関で母が追ってきた。
「せっかく作ったのに。都和は昔から感謝が足りない。梨央まで真似しなくていいのよ」
梨央が靴を履きながら答える。
「真似じゃない。私はコロッケだから」
外へ出ると、冷たい風が頬に当たった。
都和は梨央に尋ねた。
「一個、交換する?」
「食べてから決める」
定食屋の明かりへ向かって歩く。
今夜、何個食べるかは、皿が置かれる前から決められていなかった。