一日一問の蜂飼い
「魔物へ一日一度、はいかいいえで答えさせるだけ?」
宮廷魔獣院の試験官は、アロエルへ無能札を投げた。
【技能:《一問一答》――名を与えた魔物一体へ一日一度だけ、肯定か否定で答えられる問いを通じさせる】
命令はできず、詳しい説明も聞けない。彼は王都を離れ、月蜜蜂の巣箱を並べた山村で暮らし始めた。女王蜂にはルルカと名をつけた。
春、蜂が次々に落ちた。巣箱の周囲から、いつもの甘い羽音が消えていった。
翅は破れず、蜜にも毒はない。それでも朝ごと巣箱の前へ死骸が増えた。月蜜蜂が絶えれば、夜にしか咲かない王国の薬花も実を結ばない。女王レシュナは兵を連れ、「病巣ごと焼く」と告げた。
アロエルは三日だけ待ってもらった。
一日目、巣箱へ問う。
「花粉に毒がある?」
ルルカの翅が一度、否と鳴った。
二日目。
「川の水が原因?」
また否。
三日目、兵は油壺を並べた。試験官は「二択を外し続けただけ」と嘲った。アロエルは巣箱の前へ置かれた銀の香炉を見た。王都から来た養蜂師が、害虫除けとして毎晩焚いているものだ。
「この香りが、あなたたちを苦しめている?」
巣の中から、何千もの翅音が一度に強く響いた。肯定。
香炉を割ると、底から青い粉が出た。害虫には無害だが、月の魔力を帯びる翅だけを硬くする鉱粉だった。輸入商が、薬花の値を吊り上げるため混ぜていたのである。
それでも、すでに飛べない蜂が多い。薬花の開花は今夜だった。
アロエルは巣箱を一つずつ荷車へ載せ、薬花畑の中央へ運んだ。歩ける蜂たちは花へ這い、足と腹で花粉を移した。ルルカも最後に巣を出て、一輪だけを渡った。
翌朝、白い薬花のあとに銀色の実が並んだ。
女王レシュナは火をつけるはずだった松明を地面へ伏せた。試験官が無能札を拾おうとするより先に、彼女が踏む。
「一日に一問しか聞けぬから、遅いと思った」
女王はアロエルへ王家の養蜂印を差し出した。
「だが、答えを待てぬ者は、千の魔物を飼っても一匹の声も聞けない。今後、王国が焼く前に問うべきことは、おまえが決めよ」