一粒ずつ、私の国
【職業:錬金農婦】
【固有農具:深度筒】
【評価:戦闘能力なし】
追放状の末尾まで、ずいぶん親切に書いてあった。
私は王立錬金院を出るとき、誰も欲しがらなかった細い筒だけを持ってきた。上から種を入れ、土へ突く。それだけの農具。《深度筒》は種ごとに最適な深さを測れるが、爆薬にも治癒薬にもならない。
辺境の家へ着いた初日、私は畑を全部見ないことにした。広さを数えれば心が折れる。今日は麻紐一本分、豆を二十粒植えれば勝ちだ。
一粒、筒へ落とす。
土へ突くと、先端がこつんと鳴った。
【豆種/適正深度:指二節】
【下層に小石あり/左へ三寸補正】
筒は勝手に少し傾き、種を柔らかな場所へ置いた。さらに薄い土をかけ、空気の隙間まで整える。学院では「一本植える間に魔導砲なら三発撃てる」と笑われた。
でも、畑は撃たなくていい。
二粒目。三粒目。乾いた種が筒を滑る音は、硬貨より小さい。それなのに二十回聞くうち、ここが確かに私のものになっていく気がした。
十八粒目で指が震えた。
学院の実験では、百粒のうち九十九粒が発芽しても「一粒の損失」と赤字で記された。私は失敗した一粒ばかり数え、眠れなくなった。
ここでは逆に数える。置けた種が十八。次で十九。最後で二十。
最後の一粒を落とす。
【作業完了】
【発芽予測:二十/二十】
文字が夕空へ淡く浮かび、すぐ消えた。たった一列。けれど、誰の許可もいらない満点だった。
私は土のついた手で、茸と硬いパンを鉄板へ載せた。油が弾け、茸の縁がきつね色になる。湯を注いだ椀から、乾燥香草の匂いが立った。
そのとき学院の転送箱が光り、金縁の封書を吐き出した。
【緊急招聘/発芽実験、全件失敗。至急帰院せよ】
私は表示だけ読み、封書を開かなかった。代わりに深度筒を壁へ立てかけ、焼けた茸をパンに挟む。
「二十一粒目は、明日」
王都の失敗は今夜の仕事ではない。
噛むと、ぱりっと音がした。私の国で最初に鳴った、誰にも止められない祝砲みたいな音だった。