七度目の鐘

一度目の鐘で、舌から味が消えた。

鐘守ガルシェは鉄の階段を踏みしめ、次の縄をつかんだ。大聖堂の下では、七体の悪霊が祭列へ襲いかかっている。教会が地下で飼い、献金の多い日にだけ放して「奇跡の退魔」を演じてきたものだ。今夜は鎖が切れ、司祭たちは逃げた。

鐘は一打につき悪霊を一体消す。その代わり、鳴らした者から感覚を一つ奪う。縄に結ばれた七つの節が、失う順番を示していた。

二度目。香炉の煙も、血の臭いも分からなくなる。

三度目。縄の荒さが掌から消えた。皮が裂けても、温かい液が流れているのを目で見るしかない。

下から少女エノラの声がした。

「あと四体!」

四度目の鐘が鳴る。音が途中で途切れた。

ガルシェは鐘が揺れているのを見て、聴覚を失ったと知った。悪霊の絶叫も、人々の祈りも、世界の外へ落ちた。

五度目。

闇になった。

それでも鐘楼の梁の数は身体が覚えていた。左へ三歩、膝の高さに横木、そこから二歩。手探りで六本目の縄へたどり着く。

六度目を引いた瞬間、上下が消えた。床が壁になり、身体がどちらへ倒れているか分からない。彼は縄を腕へ巻き、宙づりのまま揺らした。

残る節は一つ。

最後に奪われるのは《自己感覚》――自分の身体、自分の名、自分と他者の境を知る感覚だ。歴代の鐘守は誰も七度目を鳴らさなかった。鳴らせば生き残っても、自分へ帰れない。

下では最後の悪霊がエノラへ迫っているはずだった。見えず、聞こえず、触れない。確かなものは、腕に絡めた縄の重さだけ。

ガルシェは身体ごと鐘楼の外へ投げた。

落下の力が縄を引く。

七度目の振動が石壁を通じて骨へ届き、そこで意味を失った。

夜明け、エノラは鐘楼の軒から男を助け下ろした。男は傷だらけだったが、息はある。悪霊は一体も残っていなかった。

少女は彼を抱きしめ、何度も名を呼んだ。

男は返事をしなかった。

味も匂いも、温度も音も光もない。それ以上に、抱かれている肉体が自分のものだという感覚がなかった。胸を叩く鼓動も、どこか近くの壁を叩く音にすぎない。

エノラは彼の掌へ指で文字を書いた。

――ガルシェ。

男はその形を理解した。

けれど、それが自分を指す名だとは理解できなかった。七つの悪霊が消えた朝、鐘楼から降りてきたのは、身体だけを残した誰でもない者だった。