七番席のばね

名画座「銀河館」の七番席は、座るたびに金属音を立てた。閉館が噂されてから客足はさらに減り、その音だけが上映中によく響いた。

桐生宥人は、もう放っておけばいいと思っていた。来月からシネコンの契約社員になる。ここでの五年間は履歴書に一行しか残らない。

「最後まで鳴かせる気か」

映写担当の久我が工具箱を持ってきた。二人は最終上映後、七番席を床から外した。

座面の裏では、ばねが一本折れ、布へ食い込んでいた。交換部品はない。久我は倉庫から破れた緞帳を持ち出し、桐生に細く裂かせた。

「布で持つんですか」

「持たせる。次が来るまで」

次が何を指すのかは聞かなかった。修理部品か、客か、買い手か。銀河館にはどれも来ていない。

桐生がばねを引き上げ、久我が布を何重にも巻いた。指先に油がつき、古い埃が咳を誘った。二人は以前、上映作品の選び方で怒鳴り合ってから、必要なことしか話していなかった。

「シネコンは座席を自分で直さないそうです」

桐生が言うと、久我は鼻で笑った。

「正しい会社だ」

「ここは間違ってますか」

「間違ったまま、長くやりすぎた」

布を結び、座面を戻した。桐生が座ると、少し沈んだが音はしない。久我も隣の八番席に座った。二人で立ったり座ったりを繰り返し、最後は同時に腰を下ろした。七番席は軋まず、代わりに八番席が小さく鳴った。久我は工具箱をそちらへ寄せた。スクリーンには終了画面の白い光だけが残っていた。

「来週の特集、フィルム運ぶ人がいない」

「閉めるんじゃないんですか」

「まだ来週ではない」

事務所へ戻ると、桐生の私物を詰めた箱が机にあった。昼に自分でまとめたものだ。久我はその上へ、七番席から外した錆びたばねを置いた。

桐生は箱を抱えたまま裏口まで行った。そこでばねが落ち、床に小さな音を立てた。拾い上げると、油が掌についた。

箱は重い。桐生は事務所へ戻り、机の下へ置き直した。転職先の契約書は鞄にある。それでも来週のフィルムを運ぶ台車が、どこにしまわれているか知っているのは、まだ彼だった。