三・二グラムの青い破片
朝市で一番人気のパン工房《麦灯》に、悲鳴が上がった。
焼きたての祝祭パンから、青いガラス片が出たのだ。
工房長の久我山壮平は、見習いの早蕨ほのかを客の前へ引きずり出した。
「飾り棚を割った腹いせに、生地へ混ぜたな。昨日、私に叱られたばかりだ」
ほのかの作業台から、同じ青色の破片が入った小瓶まで見つかる。久我山は返金を約束しながら、衛兵へ提出する異物混入報告書を書いた。
〈発見物・青色ガラス三・二グラム。混入者・早蕨ほのか〉
「重さまで分かるんですか」
ほのかが尋ねると、久我山は苛立った。
「長年の職人なら見ただけで分かる。言い逃れするな」
その言葉を聞いていた市場検査官が、パンから取り出した破片を秤へ載せた。
表示は、三・二グラム。
客席がざわめく。パンを切る前に、久我山はなぜ正確な総重量を知っていたのか。
「偶然だ!」
久我山は報告書を奪おうとしたが、検査官は裏面を示した。工房では装飾材料を一片でも持ち出す際、重量と用途を記し、責任者が署名する。前夜の払い出し票が複写されていた。
〈青色展示ガラス・三・二グラム。新商品の飾りに使用〉
受領者は久我山壮平。署名も、たった今の報告書と同じだった。
さらに、払い出し棚の封印糸は、一度切ると受領時の声を短く残す。検査官が糸へ熱を当てる。
『明日の一番窯へ入れろ。見習いの台に残りを置けば、誰も疑わん』
久我山は、帳簿を細かくつける自分を誇っていた。だから不正をしても、帳簿へ別の名目を書けば完全だと信じた。重さまで揃えた几帳面さが、逃げ道を塞いだ。
ほのかは汚名を消された作業札を胸へ戻す。
市場検査官が衛兵へ告げた。
異物を口にした客は幸い唇を切っただけで済み、「この子は毎朝、私の孫のために柔らかいパンを焼いてくれた」とほのかをかばった。久我山が弁償金で黙らせようと差し出した袋も、客は受け取らない。工房の職人たちは、ほのかの作業台を囲んでいた壁を崩すように、一人ずつ彼女の隣へ移った。
「久我山壮平を、傷害未遂および証拠捏造の容疑で拘束せよ」