三分だけの仕分け

母からの電話は、段ボールを開けるたびに鳴った。

一回目は、客間の座布団を捨てないで。二回目は、父の辞書は右から三冊目まで残して。三回目は、宵子の小学校の工作を絶対に持って帰って。

母は新居のソファに座ったまま、実家の中をまだ支配していた。

四回目の着信が鳴ると、宵子はスマートフォンを新聞紙の上に置いた。画面には「お母さん」と表示され、隣で三分のキッチンタイマーが光っている。

「今から三分だけ話すね」

出るなりそう言うと、母は笑った。

「何よ、仕事みたいに」

「片づけも仕事だから」

「じゃあ手短に言うけど、仏間の押し入れに赤い箱があるでしょう。あれは開けないで、そのまま――」

宵子はタイマーを押した。数字が二分五十八秒へ減る。

赤い箱には、家族旅行の領収書、乾いた花束、宵子宛ての未投函の手紙が入っていた。開けるなと言われたからではなく、持ち主を確かめるために昨日開けた。

「赤い箱は、お母さんの新居へ送る」

「あなたが持っていればいいじゃない。家族の記録なんだから」

「私は写真を三枚だけ選んだ。ほかは、お母さんが残したいもの」

「冷たい子ね。昔は何でもお母さんに聞いたのに」

一分四十一秒。

宵子は床に置いた三枚の写真を見た。どれも母の選んだ集合写真ではない。ピントの外れた海、父の靴、アイスを落として泣く自分。自分で覚えていたいものだけだ。

「今日は、残す物を聞く電話じゃなくて、送る住所を確認する電話にする」

母は息を吸った。

「そんな勝手に――」

タイマーが鳴った。

「三分。続きは明日の六時に、また三分だけ」

「待ちなさい、宵ちゃん」

宵子は通話を切った。呼び名まで画面から消えると、部屋には紙の擦れる音しか残らなかった。

すぐに五回目の着信が来た。宵子は拒否せず、機内モードにもせず、音だけを切った。約束した時刻までは出ない。それは無視ではなく、自分で決めた間隔だった。

赤い箱に送り状を貼る。品名の欄には「母の保管品」と書いた。「家族の思い出」とは書かなかった。

最後に三枚の写真を小さな封筒へ入れる。タイマーを再び三分に合わせ、今度は自分のために鳴らした。その三分で、宵子は次の箱を一つだけ空にした。