二十一本目のフリースロー
最後の大会で、彼はフリースローを二本とも外した。
一点差で負けた。
帰りのバスでは誰も責めなかった。その優しさが、本人にはいちばんつらかったらしい。翌日から部活へ来なくなった。
引退した三年生が体育館を使えるのは、もうない。
だから夜、私たちは窓から入った。
マネージャーの私と、補欠だった彼。ボールは昼間、器具庫の裏へ隠しておいた。
「二本だけでいい」
彼はそう言ったが、最初の一本を外した。
誰もいない体育館に、ボールの跳ねる音が響く。
二本目も外れた。
「帰る」
「二十本」
「意味ない」
「二十本入るまで帰らない」
試合をやり直せないことは分かっている。入れても結果は変わらない。そんな説明を、大人ならするだろう。
でも彼が必要としているのは、正しい結果ではなく、ボールを手放したあとに一度だけ網が鳴る音だった。
三本目。外れ。
四本目。入った。
「帰れるじゃん」
「今のは数えてない」
「何で」
「試合の二本の続きだから。二十一本目まで」
勝手なルールだった。
彼は文句を言いながら投げ続けた。
八本目から手首が戻った。十二本目で連続三本。十八本目で天井の照明が一つ消えた。
二十本目が入ったとき、私はボールを拾わず、彼を見た。
「次が最後」
彼はラインの後ろへ立った。
夜の体育館には観客も仲間もいない。私だけが、スコアブックを持たずに見ていた。
ボールが弧を描く。
網が鳴った。
彼は両手を膝へつき、しばらく動かなかった。
泣いていたのか、笑っていたのか分からない。
「これで勝ち?」
私が聞くと、彼は首を振った。
「負けたまま。でも、終われる」
帰ろうとしたとき、体育館の外で車のライトが動いた。私たちは器具庫へ隠れ、息を殺した。狭い暗闇で、彼が小声で言った。
「付き合わせてごめん」
「秘密の共犯者代、アイス一本」
「高い」
翌日、彼は部室の片づけへ来た。
後輩にボールの磨き方を教え、最後にゴールを見上げた。
私たち以外、二十一本目のことは知らない。
けれど彼が体育館を振り返らず出られた理由を、私は知っている。