二十八日目の円柱
小暮大地は、建材試験会社でコンクリート供試体を潰す仕事を始めて半年だった。湾岸倉庫の完成引渡し会議で、彼は圧縮強度証明書を運ぶ役を命じられた。
設計基準は一平方ミリメートル当たり三十ニュートン。証明書には三十二・四とあり、施工会社の常務は最終工事代金の支払いを求めた。
大地が試験した二十八日目の供試体は、二十四・一で砕けていた。
「円柱の端面が欠けていたから無効だ」と試験課長の富樫は言った。「七日目の値から推定した正式値を使った」
証明書の下には大地の認印が印刷されていた。だが彼は押していない。
大地は保管庫から、砕けた円柱のラベルを持ってきた。製造番号C-2817。証明書も同じ番号である。七日目の供試体なら末尾は07でなければならない。
富樫は、ラベルの貼り間違いだと主張した。
大地は試験機の荷重曲線を投影した。二十四・一で急落する波形、その直後に撮影された破断面、そして自動記録された午前九時二十八分。証明書の作成時刻は同日午前九時十九分だった。試験結果が出る九分前に、合格証明書が完成している。
施工会社の常務は「倉庫を止めれば違約金が出る」と声を荒らげた。大地の会社も損害賠償を受ける。富樫は小声で、正社員登用を考えていたのに、と告げた。
大地は偽造された認印を指した。外周の「暮」の字が欠けている。それは総務が保管する旧印で、半年前に廃棄届が出ていた。
「強度が足りない円柱より、先に証明書が立っています」
大地は供試体の重量記録も読み上げた。合格証明書に記載された十二・四キロは、七日目の円柱の重さだった。二十八日目のC-2817は水分を失って十一・八キロ。番号、時刻、重量の三つが同時に入れ替わる偶然はない。倉庫の柱はすでに屋根を支えていた。
倉庫会社の担当役員が支払決裁書を閉じた。振込日欄へ伸びていたペンが止まり、二十八日目の工事代金は一円も動かなかった。