二時十七分の通行記録

深夜配送員の共有シートでは、山越えルートの備考欄だけ赤字になっている。

【旧楢袋トンネル】

《午前二時十七分に入ってはいけない》

宍倉透馬は二十六歳、配達アプリの評価は四・九八。迷信で遠回りして遅配になる方が怖かった。二時十四分、追加報酬三千円の注文が入り、目的地まで最短十一分。旧トンネルを通れば間に合う。

02:16:52 トンネル進入

02:17:00 GPS信号消失

02:17:00 目的地まで 0.8km

02:17:00 到着予定 2:17

表示はそこから一秒も進まなかった。

ヘッドライトの先に、同じ配達バッグを背負った自転車がいた。追いつこうとしても距離は縮まらない。相手の背中に貼られた登録番号は、透馬のものだった。

サポートへ電話すると、自動音声が答えた。

「配達員はすでにお届け先へ到着しています」

その瞬間、前を走る男が振り向きかけた。透馬はブレーキを握り、側壁へ転び、目を閉じた。次に開けると、朝の光の中でトンネル出口に倒れていた。時計は二時十八分。膝の擦り傷以外、荷物も無事だった。

届け先のアパートへ急ぐと、部屋番号は自分の住む五〇三号室だった。注文者名も《宍倉透馬》。頼んだ覚えはない。インターホンを押しても応答はなく、アプリだけが「玄関前に置いてください」と指示した。

透馬は写真を撮り、配達完了にした。画面は正常な時刻へ戻った。

帰宅したのは朝五時だった。五〇三号室の前に荷物はない。室内にも誰もいない。疲労のせいだと考え、シャワーを浴びて眠った。

翌夜二時十七分、枕元のスマートフォンが鳴った。

《配達員が到着しました》

ドアベル映像には、旧楢袋トンネルの暗い壁が映っていた。自転車の男が画面いっぱいに近づき、配達バッグから昨夜の荷物を取り出す。

受領ボタンの下に、いつもの文言が出た。

《対面で受け取る場合は、配達員の名前を確認してください》

男はカメラへ顔を上げた。透馬の顔だった。

画面の名前欄には《お客様》と表示されていた。