五分だけの停戦
校舎と部室棟の間にある小さな庇へ、二人同時に飛び込んだ。
僕はサッカー部、彼は野球部。グラウンドの使用時間をめぐって、昼休みに部長会で言い争ったばかりだった。
雨は境目もなく落ち、土のグラウンドを一枚の茶色い水面に変えていく。僕のスパイクも、彼のトレーニングシューズも泥だらけだった。
「そっち、狭い」
「先に入ったの俺」
「肩、出てるだろ」
「お前がでかいんだよ」
庇は二人が並ぶには短く、僕が濡れれば彼が乾き、彼が寄れば僕の肘が雨に出た。
五分ほど無言で押し合った末、彼が吹き出した。
「何してんだろうな、俺ら」
昼休みと同じ顔で笑うから、僕も負けた気がして笑った。
彼は足元の泥をつま先でならした。
「本当は、来週だけ全面使えればいい。引退試合の前だから」
「それ、会議で言えよ」
「お前が最初から喧嘩腰だった」
「そっちが『芝を荒らす』とか言うからだろ」
「荒らすじゃん」
「今のグラウンド見てから言え」
一面が水たまりだった。どちらの部も使えない。
僕たちはしばらく、雨に負けたグラウンドを眺めた。
「半面ずつじゃ、どっちも練習にならないんだよな」
「じゃあ時間を分ける?」
「お前ら、朝できる?」
「眠い」
「うちも眠い」
交渉はひどく低いところから始まった。それでも、互いの大会日程とメニューをスマホで見せ合ううちに、使える時間が少しずつ見えてきた。彼は濡れた地面に指で時間割を描き、僕はサッカーのライン用チョークで境界を引いた。雨が消すたび、二人で書き直した。
雨が弱まり、庇から落ちる雫が細くなった。
彼が手を差し出した。
「停戦、五分延長する?」
「明日の部長会まで」
「短いな」
「結果がよければ更新」
握った手は、汗なのか雨なのかわからないほど濡れていた。
翌日の会議で、僕らは共同の使用案を出した。顧問たちは驚き、他の部長たちは面倒そうな顔をした。
あの日の雨宿りを知る者はいない。
ただ、雨上がりのグラウンドには、サッカーゴールからホームベースまで、二人の泥の足跡が平行に続いていた。