交換してよい
八朔礼央は、配られた王のカードを透明箱へ入れ、蓋を施錠した。
浦賀沙都が眉をひそめ、門脇岳志は笑った。
「交換できなくしてどうする」
礼央は壁の文を読み上げる。
〈各参加者は一度だけ、他の参加者とカードを交換してよい。終了時、最も位の高いカードを持つ者を解放する〉
「してよい、だ。しなければならない、じゃない」
開始時、礼央は王、沙都は十、岳志は三。卓の中央には交換を成立させる読取台があり、二人がカードを重ねれば一度だけ所有者が更新される。
主催者は、王を巡る交渉と裏切りを期待していた。透明箱は「交渉中のカード保管用」として置かれていたが、鍵は各自に一本ずつ渡されている。交換を強制する装置なら、そもそも個人鍵を配る必要はなかった。
『交換を拒否すれば、ゲームに参加したことになりません』
「参加条件は入室と首輪装着で満たした。交換は許可であって義務じゃない」
残り五分。岳志は沙都へ持ちかける。
「俺の三と十を交換しろ。次に俺が王を奪って、お前へ渡す」
一度しか交換できない規則なのに、矛盾した約束だった。沙都は気づかず、十を三へ替えてしまう。岳志は十を手にしたが、もう交換権を使ったため王へ触れられない。
沙都は青ざめ、礼央へ交換を申し込む。
「王と三を替えて。外に出たら、何でもする」
「僕は交換しない」
『交渉を拒絶する行為は、番組趣旨に反します』
「趣旨は、規則に書かれていない」
終了十秒前、透明箱の鍵が自動的に解放された。礼央は王を取り出し、胸元へ置く。交換記録はゼロのまま。それでも失格灯は点かない。
〈最高位、王。勝者、八朔礼央〉
首輪が落ちる。
岳志は十を握り潰し、沙都は三を見つめた。二人は「交換ゲーム」という名前に縛られ、交換しない選択を捨てていた。
礼央は開いた扉の前で言う。
「命令と許可を同じ語尾で書けないから、主催者は『してよい』を選んだ。僕はその一文字を信用しただけだ」
透明箱の中には、誰とも交渉しなかった鍵だけが残った。