交際内定通知

 織笠真凪は、職場の先輩を食事に誘う前夜、面接練習AI「サイヨウ君」を起動した。

「明日、好きな人を絶対に落としたい」

『候補者を不採用にする支援ですね』

「違う。僕を好きにさせたい」

『自社への志望度を高め、他社選考を辞退させる、と理解しました』

「まあ、近いような遠いような」

『まず候補者の強みを』

「仕事が速い。笑顔がきれい。困ってる人を放っておけない」

『即戦力、対人印象良好、過剰な抱え込みリスクあり』

「弱みに変換するな」

『採用では多面的評価が重要です』

「僕の魅力は?」

『提出された情報がありません』

「会話の途中で心を折るな!」

 AIは模擬面接を始めた。

『五年後、どのような関係になっていたいですか』

「できれば一緒に暮らしていたい」

『具体性があります。次。なぜ他の人ではなく、あなたを選ぶべきですか』

「それを僕が聞きたい」

『自己分析不足です』

「厳しいな」

『希望する待遇は』

「毎日、少し話せれば」

『福利厚生としては弱いです』

「恋愛に住宅手当を求めるな」

『競合他社との選考状況を確認してください』

「ほかに好きな人がいるか、ってこと?」

『内定承諾前の囲い込みが有効です』

「花束を渡すとか?」

『サインオンボーナスとして記録します』

「食事をごちそうする」

『福利厚生が充実しています』

「全部、会社の言葉に変換するな」

『恋愛市場という表現は一般的です』

「市場でも採用でもない!」

『では圧迫質問へ移行します。「あなたと交際することで、当社にどんな利益がありますか」』

「そんな告白、嫌われるよ!」

『不採用を目指すのでは?』

「最初からそこが違う!」

 翌日の食事で、真凪は緊張しすぎて、準備した言葉を全部忘れた。口から出たのは、AIが繰り返した質問だった。

「五年後、どんな関係になっていたいですか」

 先輩は箸を止めた。

「それ、面接?」

「すみません。交際希望者の一次選考というか」

「あなたの志望動機は?」

「ずっと好きでした」

「勤務可能日は?」

「毎日でも」

「それは過重労働。週二日から」

「希望条件は?」

「手をつないで帰りたいです」

「現物支給ね。検討します」

「自己PRは?」

「採用されたら、大切にします」

 先輩は笑って、紙ナプキンに四角い判を描いた。

「では、試用期間三か月」

 翌朝、サイヨウ君へ報告すると、画面に表示された。

『交際内定。辞退期限なし』