伝説の剣は発泡素材
王都の広場に、岩へ刺さった黄金の剣が現れた。
立札には、
〈抜いた者こそ、世界を救う最強の勇者〉
百人の騎士が挑み、誰も抜けなかった。最後尾にいた行商人バシル・テュエは、荷車を止めて笑った。
「力の入れ方が違う」
彼が片手で柄を引くと、剣はすぽんと抜けた。
広場が静まり、その後、大歓声が起こった。
「勇者様!」
「片手で!」
「しかも行商のついでに!」
バシルは剣を掲げた。驚くほど軽い。
「伝説の武器は、持ち主へ重さを感じさせないらしい」
騎士団長がひざまずく。
「ぜひ魔王討伐軍の指揮を」
「指揮経験は?」
「荷車を三台連ねたことがある」
「軍団運用の素質があります」
「そうだろう」
王宮へ招かれ、宴が始まった。
大臣が尋ねる。
「剣の能力は?」
「軽い」
「ほかには?」
「非常に軽い」
「斬撃は?」
「伝説級だろう」
「試し斬りを」
「伝説を消耗させるのは惜しい」
「では魔力測定を」
「測定器が壊れる」
「なるほど、強すぎて」
会話を重ねるほど、バシルの設定は増えた。
「幼少期から力を隠していた?」
「周囲への配慮で」
「師匠は?」
「いない。強いて言えば道」
「流派は?」
「荷車流」
「大地とともに歩む剣術……!」
王女まで目を輝かせた。
「勇者様なら、北門を一刀で開けられますね」
「門は普通に鍵で開けるべきだ」
「力を誇示しない謙虚さ!」
翌日、討伐軍の出発式が広場で開かれた。バシルは剣を振って見せようとしたが、刃が風でしなった。
騎士団長が目を見開く。
「柔軟な金属?」
「敵の攻撃を受け流す仕組みだ」
そこへ商工祭の責任者が走ってきた。
「誰ですか、展示用の剣を持ち出したのは! 昨日の〈勇者体験コーナー〉、撤収前だったのに!」
責任者は岩を持ち上げた。岩も片手で持てた。
「発泡素材です。剣は塗装した樹脂。抜けなかった方々は、接着剤が乾く前に引っ張ったからです」
バシルは剣を見た。
「では本物の伝説の剣は?」
「体験コーナーに本物を置くわけないでしょう」
最強勇者は、祭りの忘れ物係になった。