保健室のカーテン
親友が保健室で泣いていると聞き、私は六時間目を抜け出した。
白いカーテンの向こうから、鼻をすする音がした。
「入っていい?」
返事はなかったが、私は隙間から入った。
親友はベッドの端に座り、使い切ったティッシュを握っていた。
「振られた」
私たちが同じ人を好きだと知ったのは、一か月前だった。親友は先に告白すると宣言し、私はまだ何も言っていない。
胸の奥で、最低な安堵が生まれた。
これで私にも可能性がある。
そう思った自分が嫌で、親友の隣へ座れなかった。
「何て言われたの」
親友は赤い目で私を見た。
「好きな人がいるって」
その瞬間、カーテンの外で足音が止まった。
聞き覚えのある声が、養護の先生に何か尋ねた。
私たちが好きな人だった。
親友が私の腕をつかんだ。
「呼んだ?」
「呼んでない」
声は近づかなかった。やがて先生が「今は休ませているから」と言い、足音は遠ざかった。
親友はうつむいた。
「たぶん、あなたのことが好き」
私は息を止めた。
「告白したとき、名前は言わなかった。でも、ずっと目で追ってる人がいるって。分かっちゃった」
安堵はすぐに罪悪感へ変わった。
「違うかもしれない」
「慰めないで」
「慰めてない」
「じゃあ喜んでよ」
親友が声を上げた。
「私に遠慮して、好きじゃないふりしないで。そうされたら、私の失恋があなたを縛るだけになる」
涙でぐしゃぐしゃなのに、言葉だけはまっすぐだった。
私は立ったまま泣いた。
「喜べるわけない」
「どうして」
「あなたが泣いてるから」
親友もまた泣いた。
しばらく、カーテンの中には二人分の泣き声しかなかった。誰が傷ついた側で、誰が選ばれた側か、分からなくなった。
やがて親友が、少しだけベッドを空けた。
私は隣へ座った。
「告白するの?」
「今はしない」
「遠慮?」
「今日は、あなたと帰る」
親友は黙ったあと、うなずいた。
放課後、好きな人が昇降口で待っていた。親友の具合を心配していたらしい。
私は「大丈夫」とだけ伝え、親友と二人で校門を出た。
腕を組むほど近くはなく、他人ほど遠くもない距離で歩いた。
次の日から、三人の関係は少しずつ変わった。私はやがて告白し、親友はその場にいなかった。
返事がどうだったかより、今も覚えているのは、保健室の狭いベッドだ。
好きな人をめぐって離れかけた私たちが、泣きながらもう一度座り直した場所。