偽聖女と雪豹の凍った足

治癒の光を出せなかったティナは、偽聖女として北の修道院へ追放された。

到着した日に門前が騒がしくなった。雪原の聖獣、白紋豹が結界を破って入り込み、礼拝堂の隅で牙を剥いているという。

「邪気に堕ちたのです。討ちなさい」

院長が祈祷兵へ命じる。

白紋豹は雪より白い体に青い斑紋を持ち、本来なら冷気を鎮める守護者だ。今は一歩動くたび床が凍り、兵の槍先まで霜に覆われていた。

ティナは柱の陰から、その足跡を見た。

四つ並ぶはずの跡が三つしかない。左後脚だけ、毛が濡れて細く固まっている。

「呪いではありません。凍傷です」

誰も聞かなかったので、ティナは勝手に台所へ走った。熱すぎない湯、乾いた布、羊脂。それだけ持って礼拝堂へ戻る。

豹が吠え、窓に氷の亀裂が走った。

ティナは光を呼ぼうとしなかった。そんな力は自分にはない。代わりに床へ腹ばいになり、豹より低い姿勢で桶を押し出す。

「痛い場所を温めるだけ。治せるなんて言わないわ」

白紋豹の耳が伏せられる。

鉄の捕獲具を引きずって雪原を越えたらしく、足首には細い鎖が残っていた。濡れた毛が金具に凍りつき、皮膚まで紫色になっている。

ティナは湯で少しずつ氷を溶かした。豹が牙を見せるたび手を止め、目を合わせず待つ。凍った鎖が外れるまで、祈りの言葉は一つも使わなかった。

乾いた布で水分を吸い、羊脂を薄く塗る。最後に自分の毛布で足を包んだ。

冷気がやんだ。

豹は桶の湯を飲み、ティナが持っていた干し肉を三枚食べる。それから兵たちの前を悠然と横切り、ティナの足元へ来た。

院長が息を呑む。

「聖獣に触れられる者こそ真の――」

ティナはその続きを聞かなかった。

白紋豹が仰向けになり、柔らかな腹を見せたからだ。彼女がそっと撫でると、胸の斑紋が光り、手首に雪花の契約印が移る。

長い尾が腰へ巻きつき、豹の頭が腿に落ち着いた。

凍えるほど白い毛なのに、指を埋めた腹は熱を抱いていた。ずしりと預けられた重みが、追放の札よりはるかに確かに、ティナをここに必要だと告げていた。