傘立ての角度

死角を作ったのは、傘立てだった。

設計会社の資料室から新製品の図面が盗まれた夜、廊下の監視カメラには派遣社員が長く立ち止まる姿が残っていた。資料室の前には銀色の傘立てがあり、光を反射して画面の右下を白く潰している。派遣社員はその白い部分へ手を伸ばし、十秒後に離れた。

雨の日だったのに、傘立ての中の傘は一本も濡れていなかった。総務部長は、来客用の忘れ物だからだと言った。

さらに、傘の柄はすべて壁側を向いていた。普通は取りやすい通路側に向けるはずだ。清掃員が揃えたのだろうと部長は肩をすくめた。

派遣社員は、落とした社員証を拾っただけだと主張した。映像では確かに腰をかがめている。しかし白飛びした範囲に手が隠れ、資料室のカードリーダーへ触れたかどうかは見えない。

盗まれた図面は一枚だけで、派遣社員が担当していた部品とは無関係だった。それでも部長は、契約満了を恨んだ犯行だと決めつけた。社員証は死角の中央で見つかり、まるで彼女がそこへ立ったことを証明する目印のように、表を上にして置かれていた。

私は現場で同じ位置に立った。カメラからは傘立てが邪魔になる。だが、廊下の反対側にある消火器ボックスの小窓には、傘の金属製の柄が並んで映っていた。

傘立てを少し回す。曲がった柄の表面に、資料室の扉が魚眼のように映り込んだ。一本では歪むが、六本の反射をつなげれば、白く潰れた死角の動きが復元できる。

警備主任が、黙って別の録画を再生した。消火器ボックスを狙う小型カメラの映像だった。そこには、派遣社員が社員証を拾う姿と、その直後、総務部長が資料室から薄い封筒を抜き取る姿が映っていた。

「先月も図面が一枚なくなりました」

主任は言った。犯人がカメラの死角を知っていると考え、乾いた傘を置き、わざと目立つ反射を作ったのだという。

傘の柄を壁へ向けたのは、廊下を隠すためではなかった。壁の小窓へ、死角の中を映すためだった。

死角を作ったのは傘立てだった。だが、それは盗むための死角ではない。

盗んだ者だけが安心して立つ、罠の中心だった。