全員が多数派
安積朔は、白い床へ一歩踏み出した。
「全員、こっちへ来い」
黒い床に立とうとしていた葛西瑞葉が眉を上げる。仁科鷹臣は鼻で笑い、淡路ほのかは耳元の受信機を握りしめた。
壁の規則は単純だった。
《白か黒を選べ。多数色を選んだ者を解放し、少数色を選んだ者を処刑する》
四人の受信機には、直前に秘密の音声が届いていた。
――白を選べ。あなただけには、他の三人が黒を選ぶと教える。
朔にも同じ声が届いた。しかも音声の末尾には、全員同じ小さな咳払いが入っていた。別々の秘密ではなく、同じ録音を四人へ流した証拠だった。
「俺だけが白なら助かる。そう言われたな?」
三人の表情が同時に固まった。
鷹臣が受信機を床へ投げた。「同じ文句を全員に?」
「主催者は、秘密を与えれば人は自分だけ特別だと思うと読んでいる。だから互いに黒へ押し戻し、最後には二対二か三対一になる」
天井のスピーカーが笑った。
《疑う時間は残り三十秒。全員が白を選ぶ保証はない》
瑞葉が白の境界で止まる。「最後に誰かが黒へ走れば、黒一人だけ死ぬ。白に残れば安全じゃない?」
「逆だ。裏切る者は、自分が少数になる危険を背負う。全員が白なら白は四、黒はゼロ。白を選んだ全員が多数派だ」
「ゼロ人の黒も少数色じゃないのか」
「黒を選んだ者がいない。処刑される人間もいない」
ほのかが朔の隣へ来た。次に瑞葉。残り五秒で鷹臣だけが黒側に残った。
《あなた一人なら、黒が勝つ可能性があります》
スピーカーが甘く囁く。
鷹臣は舌打ちし、終了寸前に白へ飛び込んだ。
白、四名。
黒、零名。
生存、四名。
黒床の処刑口は開いたが、その上に立つ者はいなかった。空気だけが炎に揺れた。
四つの首輪が同時に外れた。スピーカーから雑音が漏れる。想定外の沈黙だった。
朔は受信機を拾い、カメラへ向けた。
「多数決は、必ず少数派を作るゲームじゃない。少数派が必要だと思わせるゲームだ」
閉ざされていた扉が開く。
最後に白線を越えた鷹臣が、朔を見る目だけを変えていた。