八歳の兄に老いた私

唐木田沙羅の兄は、八歳で永遠になった。

難病の治療が間に合わず、脳だけが読み取られた。仮想空間の兄は、青い半ズボン姿のまま、毎晩「今日は何して遊ぶ?」と訊いた。十歳の沙羅は最初こそ一緒に宝探しをしたが、中学生になると面会を断り、高校生になると兄の声をうるさいと思った。

両親は兄を変えたがらなかった。

「成長させる設定もあるんでしょう」と沙羅が言うと、母は首を振った。

「あの子まで大人になったら、本当にいなくなってしまう気がするの」

兄はいつも八歳で、両親はいつも彼を褒めた。失敗も反抗も老いもない子どもは、生きている妹より扱いやすかった。

沙羅は家を出た。結婚し、離婚し、働き、父と母を順に看取った。葬儀のあと、四十年ぶりに兄の世界へ接続した。

白い砂場で、八歳の兄が待っていた。

「遅いよ、沙羅」

自分は六十二歳なのに、兄から見れば十歳の妹の続きだった。沙羅は腹が立った。

「いつまで子どものふりをするの」

兄は黙り、砂場の端にある扉を開いた。

その向こうには、無数の部屋が続いていた。少年の部屋、青年の部屋、老人の部屋。壁には何千年分もの絵と計算式と、誰にも送られなかった手紙が積まれていた。

「父さんと母さんが来る日は、八歳に戻ってた」

兄は、沙羅より年上の姿になっていた。深い皺のある顔で、申し訳なさそうに笑った。

「二人が会いたかったのは、成長した僕じゃなかったから」

兄もまた、両親の悲しみの中へ閉じ込められていたのだ。永遠の少年を演じながら、一人で何千年も年を取っていた。

沙羅は兄の手紙を一通ずつ読んだ。思春期の苛立ち、初めて作った海、妹が来なくなった日の寂しさ。兄は彼女の人生を知らず、彼女も兄の人生を知らなかった。

「おかえり、妹」

老人の兄が言った。

沙羅は泣きながら笑った。

数年後、彼女も肉体を終え、仮想空間へ移った。若返る設定は選ばなかった。六十八歳の姿で兄の隣に家を建てた。

二人は相談し、毎年ひとつずつ皺を増やすことにした。

終わりのない世界で、きょうより少し老いるために。