共有画面の講演者
民俗学者の古戸崎は、閉めれば施錠される大学の防音収録室から、オンライン研究会で新説を発表した。二十分間、共有画面の図版を説明し、最後に「盗掘者の名も公表する」と告げた直後、音声が途絶えた。職員が開錠すると、古戸崎は椅子の後ろで撲殺されていた。窓も通気口も人が通れる大きさではない。
容疑者は助手の伏尾、出版社の砂子、競争相手の神前。三人とも研究会へ顔を出し続け、古戸崎の告発で損をする。収録室の扉は閉めると施錠されるため、会議前に殺して退出すること自体は可能だった。問題は、その後二十分も古戸崎が講演したことだ。
古戸崎の発表は、洞窟壁画の写真、発掘地図、年代表の順に進んだ。伏尾は画面の切替えを見ながら涙を拭い、砂子は刊行中止の損失を訴え、神前は学説の誤りを責めた。誰もが講演内容へ反応しているように見えたが、反応していたのは三人の側だけで、古戸崎の側から会話を広げたことは一度もなかった。
私は共有されたファイルだけを調べた。手掛かりは三つに限られた。
第一に、矢印カーソルは各図版で同じ速度の直線を描き、質問で講演が止まっても動きを変えなかった。
第二に、神前の予想外の質問が終わる二秒前から、古戸崎の「その点は後半で触れます」という返答が始まっていた。
第三に、発表ファイルには音声とカーソルを自動再生するリハーサル記録が埋め込まれ、最終保存者は伏尾だった。
砂子は再生ボタンを押した。死者の講演が、先ほどと同じ間合いで最初から始まった。
「古戸崎は会議開始時には死んでいた」私は伏尾へ向き直った。伏尾は発表練習を録音し、カーソル移動まで保存したスライドを自動再生させた。返答は質問への反応ではなく、録音に元からある曖昧な一文だったため、質問が終わる前に始まった。伏尾は殺害後に退出し、自動錠へ任せた。一定のカーソル、先走る返答、保存者名の三点が、講演全体を一つの再生ファイルへ戻す。二十分の生存証明は、二十分の録音にすぎない。 質疑応答に見えたものまで、再生順の偶然にすぎなかった。