冷蔵庫救援隊_作戦名カレー
冷蔵庫救援隊――作戦名・カレー
日曜の夕方、家族四人は冷蔵庫の前で緊急会議を開いた。
救助対象は、半分のタマネギ、一本だけの人参、しなびたピーマン、開封済みのヨーグルト、賞味期限が翌日の牛乳。
父が宣言した。
「全部カレーに入れる」
母が止めた。
「ヨーグルトは分かる。牛乳も少しなら分かる。ピーマン一本を丸ごと隠すのは、事件です」
姉は在庫表を作った。
弟は野菜へ名前をつけた。
「タマネギ隊長、人参副隊長、ピーマン容疑者」
「食材で遊ばない」と母。
「感謝して呼んでる」
作戦は分担制になった。
父は野菜を刻む。
母は鍋を担当。
姉は期限を確認し、傷みがないか見る。
弟は冷蔵庫の奥から、忘れられたジャガイモを一個発見する。
「新たな生存者です!」
芽が出ていたので、母が深く取り除いた。柔らかすぎる部分は無理に使わず処分した。
「大切にするのと、危ないものを食べるのは違うからね」
鍋へ野菜が入った。
ピーマンは細かく刻み、半分だけ使用。残りは翌朝の卵焼き用に保存。ヨーグルトはカレーへ一杯。牛乳は食後のプリンに回した。
煮込むあいだ、姉が冷蔵庫の棚を拭き、弟が食材の定位置を決めた。
〈早く食べる箱〉を一つ作り、開封済みの物や期限の近い物を集める。
夕食のカレーは、いつもと少し違う味がした。
「何の味?」と弟。
父が胸を張った。
「冷蔵庫を最後まで見た味」
「説明すると、おいしくなさそう」
それでも全員がおかわりした。鍋には翌朝分だけが残った。
食後、弟は救援隊の報告書を書いた。
〈本日の救助成功。
食べられるものは料理へ。
危ないところは無理しない。
買う前に家にあるものを見る。
ピーマン容疑者は、意外と無罪〉
翌朝、残ったカレーは出汁を足してカレーうどんになった。弟は〈二次救助成功〉と報告書へ追記した。
翌週から、買い物前には家族で〈早く食べる箱〉を確認するようになった。
食材へ感謝するとは、食卓で手を合わせる一瞬だけではない。
忘れず、買いすぎず、食べ時を逃さず、最後までおいしい役を与えること。
冷蔵庫救援隊は、今も毎週日曜に出動している。