出口は竜の中
「《出口指し》とは、ずいぶん臆病な職だな」
勇者選抜の試験官ダルガンは、オルカの頭上に浮かぶ銀の矢印を指で弾いた。
【技能:現在いる閉鎖空間から、最も近い出口の方向を示す】
迷宮で迷わないだけ。罠も敵も見抜けず、出口が塞がれていれば何もできない。戦闘能力はゼロ。オルカは荷物持ちとして、勇者候補三人の後ろに回された。
試験迷宮の最下層で、石扉が落ちた。
戻り道は消え、正面の広間には黒竜グラヴァンが眠っていた。候補たちが剣を抜いた瞬間、竜が目を開く。炎で左右の通路が潰れ、天井まで溶けた。
「出口を示せ!」
さっきまで笑っていたダルガンが叫んだ。同行していた試験官自身も転移石を失っていた。
オルカが技能を使うと、銀の矢印は壁にも床にも向かなかった。
まっすぐ、黒竜の腹を指した。
「故障だ!」
「いいえ。矢印は一度も嘘をついていません」
前世の地下鉄で、非常口の表示は安全な場所ではなく、ただ『外へ通じる経路』を指していた。途中に階段があろうと煙があろうと関係ない。
オルカは竜の腹に、四角い古傷があるのを見つけた。石扉と同じ幅。その周囲だけ、鱗が不自然に盛り上がっている。
「こいつ、出口を食べたんです」
黒竜は迷宮の転移門を、枠ごと呑み込んでいた。
勇者候補たちが竜の注意を引き、オルカは腹の下へ滑り込んだ。剣では鱗を断てない。そこで彼は矢印が示す一点へ、試験用の開錠札を押し当てた。札は『扉に使う道具』だ。腹の中の門が反応し、竜の身体を透かして青い光の枠が開く。
「飛び込め!」
全員が光へ転がり込んだ直後、黒竜の爪が閉じた。
たどり着いたのは、迷宮入口の広場だった。観客の歓声も聞こえない。誰も、竜の腹から受験者が出てくるとは思っていなかったのだ。
ダルガンはしばらく地面に座り込み、やがて自分の試験官章を外した。
「出口しか分からぬ無能、と言ったな」
「はい」
「撤回する。勇者が道を失ったとき、最後に必要なのは出口を知る者だ」
彼は章をオルカの胸につけた。
「今日から、おまえが迷宮攻略隊の先頭を歩け」