勇者パーティーの告白率
魔竜の炎が城壁を焼き、兵士たちが逃げ惑う中、魔導士ミュレッタは剣士バルクスの前に立った。
「バルクス。私は以前から、あなたの背中だけを見てきた」
「ミュレッタ……」
「強くて、無茶で、放っておけない。私の命を預けたい」
「こんな戦場で言うことか?」
「こんな時だから言うの。私と一緒に来て」
バルクスは剣を落としかけた。酒場で百回練習した告白の返事が、ついに役立つ日が来たのだ。
「俺も、お前を――」
「よかった! ではここに署名を」
差し出されたのは羊皮紙だった。
『魔王討伐臨時勇者パーティー加入契約書』
「……婚姻届では?」
「何それ。これは勧誘よ」
「『命を預けたい』は?」
「前衛が必要だから」
「『背中だけを見てきた』は?」
「あなたが敵に突っ込みすぎて、後衛から顔が見えない」
「『放っておけない』は?」
「回復薬の消費量がひどい」
魔竜が咆哮した。ミュレッタは羽根ペンを押しつける。
「早く。今なら加入特典で蘇生一回無料」
「恋愛特典は?」
「ない」
「手をつないで連携魔法とか」
「魔力効率が落ちる」
「新婚旅行で魔王城とか」
「ただの遠征」
バルクスは深く傷つきながらも署名した。失恋しても魔竜は待ってくれない。二人は見事な連携で竜を退け、町を救った。
戦いの後、ギルドの受付で契約内容を確認していると、係員が尋ねた。
「お二人は恋人同士ですか? 該当する場合、同伴者割引が適用されます」
「違います」とバルクス。
「そうです」とミュレッタ。
二人の声が重なった。
「え?」
「割引のためよ」
「今、顔が赤いけど」
「魔竜の熱」
「もう消えてる」
「残熱」
係員は慣れた手つきで『関係確認中』に丸をつけた。
帰り道、ミュレッタは新しい契約書を一枚だけ差し出した。表題は『二名限定・終身同行契約』。報酬欄には「食事、愚痴、たまに手をつなぐ」とある。
「これもパーティーの勧誘か?」
「そう思うなら断って」
「加入特典は?」
「私が、ずっと隣にいる」
バルクスは今度こそ内容を最後まで読み、署名した。なお、魔王討伐の成功率より、冒険者同士の告白成功率のほうが低いというギルド統計は、二人には伏せられた。