十八歳の受取拒否

峰守藍莉は、十八歳の誕生日に二十六年を受け取ることになっていた。

出生時、両親が十三年ずつ贈与契約を結んだのだ。子どもへ寿命を譲れば、難病の発症率が下がり、成人後の健康寿命も延びる。周囲は「愛情保険」と呼んだ。

藍莉はその事実を、契約会社から届いた通知で知った。

父は四十九歳、母は四十七歳で死ぬ予測になっていた。二人は明るく説明した。

「あなたが生まれたとき、できることをしたかったの」

だが藍莉には、自分の成人式と両親の葬式が一本の契約書でつながっているように見えた。彼女は受取拒否を申請した。

両親は激怒した。返還しても寿命が元へ戻る保証はない。契約時点の身体変化がすでに始まっているため、二十六年は市場へ流れ、別の買い手に渡るだけだという。

「だったら、なおさら受け取れない。私が長生きするたび、二人が減るなんて」

「あなたのために選んだのよ」

「生まれたばかりの私に、断る口がなかっただけでしょう」

家を飛び出した藍莉は、成人贈与を受けた若者の集会へ参加した。そこには感謝している人も、重荷に感じる人もいた。一人の青年が言った。

「僕は受け取る。母が売った年を無駄にしないため、百歳まで生きる」

別の女性は笑った。

「私は三十で死んでもいい。親の計画通りに長生きする義務まで贈与されてない」

藍莉は、答えが一つではないことを知った。

期限の日、彼女は受取ボタンを押した。ただし同時に、公証役場で一通の宣言を登録した。

〈この二十六年は恩ではなく、両親が自ら選んだ贈り物である。私は返済義務を負わず、進路、結婚、出産、死に方を自分で決める〉

両親は最初、そんな文書は冷たいと言った。だが父が最後まで読み、署名した。母も泣きながら続いた。

藍莉は大学を休学し、世界旅行にも介護にも行かなかった。近所の印刷所で働き、一人暮らしを始めた。両親が望んだ「立派な長い人生」ではなく、自分が選べる普通の日々を試したかった。

二十年後、両親は予測年齢を越えて生きていた。藍莉も病気をし、恋をし、離婚した。

誕生日に三人で食卓を囲んだとき、母が言った。

「贈った年、ちゃんと使ってる?」

藍莉は答えた。

「使い方を決めないでくれたから、使えてる」

それが、十八歳から続いた最初の返礼だった。