卒業鐘は影を返す
双影学院では、入学した二人の生徒へ一つの影が与えられる。
オルネアとグラハトも、七年間、同じ影を分け合った。
片方が傷つけば、もう片方の影が痛んだ。
片方が笑えば、影の口元も同時に上がった。
火術を学ぶオルネアは北方軍へ。
治癒術を学ぶグラハトは南の疫病院へ。
卒業すれば、共有していた影は二つに切り分けられる。
「影を返さなければ、ずっと一緒にいられる」
グラハトは何度も言った。
だが共有影を持ったまま学院の外へ出ると、二人の感情は少しずつ混ざり、やがて自分の望みと相手の望みを区別できなくなる。
一緒にはいられる。
ただし、どちらが誰を愛しているのかも分からなくなる。
卒業までの百日、二人は影へ思い出を刻んだ。
図書塔で眠った午後。
火術試験で前髪を焦がした日。
初めて口づけた渡り廊下。
夕暮れには、一つの影の中で二人の手が重なった。
卒業前夜、オルネアが言った。
「北へ行くのをやめようか」
「僕も南へ行かなければいい」
「そうすれば、どちらの夢を諦めたのか分からなくなるね」
「分からなければ、恨まないかもしれない」
「愛したことも、分からなくなる」
二人は笑った。
笑えるほど、答えは決まっていた。
卒業式では、生徒が一組ずつ鐘楼へ上がる。
鐘が鳴ると、共有影が足元から二つへ裂ける。
オルネアとグラハトの番が来た。
鐘守が問う。
「自身の影を受け取りますか」
二人は手をつないだ。
影の中でも、二つの手が重なっている。
「受け取ります」
同時に答えた。
鐘が鳴った。
痛みはなかった。
ただ、胸の中で聞こえていた相手の鼓動が、急に遠くなった。
足元には二つの影がある。
オルネアが手を動かしても、グラハトの影は動かない。
当たり前のことが、ひどく寂しかった。
「卒業、おめでとう」
グラハトが言う。
「あなたも」
抱きしめても、今度は相手の気持ちが流れ込んでこない。
愛しているか確かめるには、もう言葉を信じるしかなかった。
翌朝、北行きと南行きの馬車が反対方向へ出た。
二人は窓から手を振った。
影も、それぞれ別の方向へ伸びていった。
卒業とは、一緒に持っていたものを返し、自分だけの足元で歩き始めることだった。
二人の影は二度と重ならなかった。
それでも夕方になると、どちらの影にも同じ七年間の傷と笑い皺が浮かんだ。
別れによって取り戻した自分の中に、相手と過ごした時間だけは、消えずに残っていた。