右端を切らない

志乃は集合写真を受け取るたび、まず自分の位置を探した。

次に、隣の人の肩書きを思い出す。主任、受賞者、プロジェクトリーダー。最後に、自分だけが何者でもないように見えて、スマートフォンの編集画面で右端を少し切る。たいてい志乃は右端に立っていたから、写真から消すのは簡単だった。

新商品の発表会が終わった日、広報担当からチーム写真が届いた。中央には開発責任者、前列にはデザイナー。志乃は後列の端で、資料の束を抱えて笑っていた。準備期間中、会場の案内板も、来客リストも、足りなくなった延長コードも、志乃が整えた。それでも写真を見ると、華やかな人たちの背景にしか思えない。

編集画面を開き、いつもの幅まで指を滑らせた。自分の半身が消える。残った画面は見栄えがよく、投稿するならこちらの方が自然だった。

そのとき、資料の束から青い付箋が一枚落ちた。〈予備ケーブル、志乃さん確認済〉と自分の字で書いてある。発表中、映像が一度も途切れなかったことを、誰も特別には話題にしなかった。話題にならないためにした仕事だった。

準備の一週間、志乃は誰より目立たない場所を選んで動いた。登壇者の水を替え、床のテープを貼り直し、名前を間違えた席札を一枚だけ差し替えた。写真に残る仕事ではないから、せめて写真から自分を消せば、役割に合っている気がしていた。画面の端で笑う自分は、華やかではないが、あの日そこにいた人の顔をしていた。

志乃はトリミングを元に戻した。

だからといって、自分が急に重要人物に見えたわけではない。笑顔も少し引きつっている。隣の主任より背が低く、抱えた紙で服も隠れている。それでも、消す理由が肩書きの差だけなら、今日は消さなくていいと思った。

写真は投稿せず、社内フォルダへそのまま保存した。ファイル名を「発表会_修正版」ではなく、「発表会_全員」に変える。

帰りのエレベーターで、志乃はまた画像を開いた。中央を拡大せず、端から端まで一度だけ見る。自分はやはり右端にいた。

扉が開くと、志乃は画面を閉じた。写真の中の自分だけを置き去りにせず、そのまま一階へ降りた。