同期時刻二時十三分

御子柴慧士は、削除履歴を見つけた瞬間に画面を閉じた。

閉じなければ、背後の久留島参事官にも見える。

機動隊員が学生を路上へ押さえつけ、意識を失わせた夜。六台分のボディーカメラ映像のうち、隊長の一台だけが「同期失敗」とされていた。慧士は情報管理室で障害報告書を作るよう命じられている。

「原因は回線混雑でいい」

久留島が言った。

「現場周辺は通信が集中していた。よくあることだ」

しかしサーバーの監査領域には、午前一時五十八分、映像一・八ギガバイトの受信完了が残っていた。午前二時十三分、管理者権限で削除。使用されたのは甲斐谷警視のIDだった。

甲斐谷は慧士にシステムを一から教えた上司で、家族が病気になったときには勤務を代わってくれた。今は機動隊運用を統括している。

「受信完了の記録があります」

慧士は、あえて画面を開かなかった。

「ログの誤作動だ」

「削除操作もあります」

「古い検証ファイルを消しただけだ。事件映像とは限らない」

「容量と機器番号が一致します」

久留島は椅子を引き、慧士のすぐ横へ座った。

「監査ログは、お前の管理下だ。外へ出れば、まず疑われるのは誰だと思う。甲斐谷は『御子柴に権限を貸したことがある』と証言できる」

慧士は指先が冷えるのを感じた。削除者の特定には、IDだけでは足りない。だが操作端末の証明書番号は、甲斐谷の執務室に固定された機器のものだった。午前二時十三分、その階の入退室記録は、保守作業を理由に保存対象から外されている。

組織は、穴を一つずつ用意していた。慧士がそこへ落ちれば、障害報告は完成する。

「回線混雑」と書かれた下書きを開く。全選択し、削除した。

代わりに受信完了時刻、削除時刻、端末証明書、権限変更履歴を記載する。復元できないことも、そのまま書いた。映像の内容を見ていない以上、何が消されたかは断定しない。だが、存在した映像が人の手で消えたことだけは断定できる。

久留島が電源ケーブルへ手を伸ばした。

慧士は先に、監査ログを書き込み禁止媒体へ書き出した。宛先欄に県警監察、地方検察庁、外部監査委員会の三つを並べる。

午前二時十三分の一行を選択し、送信した。