吹き抜けの四階便
改装中の美術館で、四階学芸員室の前に細長い荷物が置かれていた。中には一週間前に盗まれた素描がある。荷物が現れた午後三時から三時十分まで、階段は警備員が見張り、エレベーターは点検停止中。廊下の窓は開かない。誰も四階へ上がれないはずだった。
館内にいた容疑者は、修復家の桑島、警備員の千々石、展示設計者の鳳城。桑島は地下修復室、千々石は一階階段前、鳳城は屋上で懸垂幕を外していた。三人とも素描の保険金や評価をめぐり、館長と争っていた。荷物は回廊の手すりから一メートル内側にあり、下から投げ上げたなら届かず、屋上から落とせば一階まで落ちる位置だった。
手掛かりは三つだった。荷物は上面だけが小雨で濡れ、側面と底は乾いている。結び紐には、屋上の懸垂幕用滑車から落ちる真鍮粉が付着していた。そして鳳城の巻き取り機には、段ボール繊維を噛んだ新しい擦り傷が一本あった。
千々石は「屋上から落とせば一階まで落ちる」と笑った。確かに、美術館中央は一階から天井までの吹き抜けだ。しかし各階の回廊には、懸垂幕を固定する細い横索が渡されている。屋上の巻き取り機で索の角度を変えれば、荷物を四階の手すりまで滑らせられる。
桑島は素描を取り戻したかったと認めたが、地下から屋上設備には触れない。千々石は階段を離れれば映像に残る。鳳城だけが、上から物を運んでも「四階へ上がった」ことにならない位置にいた。彼は設計図を丸めながら、索は幕を支えるだけで荷重には耐えないと主張した。しかし細長い箱は二キロにも満たない。
「鳳城さんは荷物を屋上で索へ結び、巻き取り機を逆転させて四階回廊へ滑らせた。雨に触れたのが上面だけなのは、短時間、屋上に置かれたから。真鍮粉は滑車、繊維傷は箱を固定した痕です。四階へ人を上げる必要はなかった。吹き抜けを荷物だけ横切らせたのです。あなたのアリバイである『屋上にいた』という事実が、そのまま配達経路でした。人の移動を監視していた全員が、荷物の移動までは見ていなかった。その盲点を知るのは、吹き抜けを設計したあなたです」