喪中規則_笑い声可

喪中規則、笑い声可

【祖母の死後、家族が決めた規則】

 一、四十九日までは派手な外出を控える。

 二、祖母の部屋へ勝手に入らない。

 三、食卓で大声を出さない。

 四、祖母の話で笑わない。

 四番を提案したのは長女だった。

「亡くなったばかりなのに、面白い話にするのは失礼」

 次男は反対した。

「ばあちゃん自身が一番笑わせてた」

 三男はどちらにもつかず、黙って食器を洗った。

 三日目、次男が祖母の失敗談を始めた。

「法事でお坊さんの靴を履いて帰ったこと、覚えてる?」

 長女が睨んだ。

「規則違反」

「本人が『足が急に仏門へ入った』って笑ってたんだぞ」

 三男が吹き出した。

 長女は箸を置き、泣きながら部屋へ戻った。

 それから食卓は、本当に静かになった。

 誰も祖母の話をしない。

 笑う可能性があるからだ。

 四十九日の前日、遺品のラジオから録音が流れた。祖母が地域の投稿番組へ送った音声だった。

『うちの孫たちは、悲しいと黙る癖があります。私が死んだら、しばらく家は図書館より静かになるでしょう。誰か、笑い方を思い出させてやってください』

 三人は顔を見合わせた。

『ただし、私の失敗談は一回につき菓子一個。無断使用は著作権料を取ります』

 次男が笑い、三男も笑った。

 長女だけは泣いたままだった。

「私は、笑ったら平気になったと思われるのが嫌だった」

「平気じゃなくても笑うだろ」

「私はできなかった」

「じゃあ、できる日まで笑わなくていい」

 三人は規則を改訂した。

 一、笑える人は笑う。

 二、笑えない人へ笑顔を求めない。

 三、同じ話を何度してもよい。

 四、祖母の失敗談を語る人は、菓子を一つ供える。

 四十九日の法要で、長女は初めて話した。

「おばあちゃん、私の結婚式で名前を間違えたの」

 次男が言った。

「新郎の?」

「私の」

 三人とも笑った。

 長女は笑いながら泣いた。

 祖母のいない食卓は戻らない。

 けれど静かにすることだけが悲しみではなく、笑うことだけが克服でもなかった。

 家族はそれぞれ違う速さで、祖母の話を声に戻していった。