四百二十キロ足りない
電子部品メーカーの輸出売上会議で、高遠崎佑真は通関業者の若手書類担当として、航空運送状の説明を求められた。海外商社へ車載センサー千個を販売し、売上三億円を期末計上する案件だった。
営業役員は、三月三十一日午後十時に空港へ搬入済みだと述べた。運送状、輸出申告控え、買い手の受領確認もある。
佑真は運送状の重量欄を示した。総重量十八キロ。センサー一個は梱包込み四百三十八グラムで、千個なら少なくとも四百三十八キロになる。四百二十キロ足りない。
営業役員はサンプルだけ先に送り、残りは別便だと説明を変えた。
しかし請求書には千個全量の引き渡し条件が「空港搬入時」と記載されている。別便の運送状番号は空欄。十八キロの貨物をX線画像で確認すると、入っていたのは展示用カタログ二箱だけだった。
輸出申告番号にも不自然な点があった。末尾の検査数字が合わず、税関システムへ照会すると別会社の衣料品輸出番号だった。PDF上で番号の上七桁だけを置き換えている。
買い手の受領印は香港支店のものとされたが、その支店は前年に閉鎖済み。署名者はメーカーの海外営業社員で、三月三十一日は国内本社へ入館していた。
佑真の会社はメーカーの通関案件に売上の大半を依存していた。上司は「書類上は整っていることにしろ」と囁いた。
佑真は空港搬入証明へ自社確認印を押さず、重量計算を投影した。
「カタログがセンサーへ変わらない限り、十八キロで千個は運べません」
佑真は航空会社の予約記録も示した。予約された貨物は二梱包、十八キロ、品名は「Printed Materials」。千個のセンサーを載せる貨物スペースは確保されていない。営業役員が別便だと繰り返すたび、空欄の運送状番号だけが大型画面で目立った。
航空会社の担当者もオンラインで呼ばれ、十八キロ以外の貨物予約は受けていないと明言した。
監査委員長が三億円の売上承認書を閉じた。空港へ届かなかった四百二十キロが、決裁を滑走路の手前で止めた。