四通ぶんの姉
父の死後、机から四通の手紙が見つかった。
どれも同じ女性に宛てられ、投函されていない。
〈二十歳の誕生日おめでとう。父親と名乗る資格はないけれど〉
〈結婚したと聞きました。幸せを願っています〉
〈あなたに妹がいます。知らせることが正しいのか、今も分かりません〉
私は差出人の代わりに、封筒を持って住所を訪ねた。
出てきた女性は、父の若いころの写真に似ていた。
「知っていました」
彼女は言った。
「母が亡くなる前に教えてくれた。あなたのお父さんが、私の父でもあるって」
「会ったことは?」
「一度だけ。知らない人として」
彼女は小学生のころ、公園で父と話したことがある。父は名乗れず、ジュースを一本買って帰った。
「それだけ?」
「それだけだから、ずっと覚えてる」
私は腹が立った。父にではなく、彼女にでもなく、自分だけが父の朝の癖も、鼾も、怒ると黙ることも知っている事実に。
「私は、父を独り占めしてたみたい」
「あなたのせいじゃない」
「でも、あなたは四通しかない」
「四通もある」
彼女は封筒を胸へ抱いた。
私は父の話をした。目玉焼きには醤油。運動会では必ず場所取りに失敗。娘が泣くと、慰める代わりに洗濯物を畳む。
彼女も、自分の母から聞いた若い父の話をした。歌が下手。泳げない。別れ際、何度も振り返った。
私の知らない父がいた。
鞄から、父が使っていた万年筆を出した。葬儀の日まで胸ポケットに入っていたものだ。
「これ、持っていく?」
彼女は首を振った。
「あなたが使って。私は、手紙の字を持ってるから」
代わりに一枚の写真を見せてくれた。公園のベンチに座る少女と、その後ろを遠く歩く父。少女の母が偶然撮ったという。
「半分ずつ持てないね」
「じゃあ、会う理由にしよう」
帰り際、彼女が言った。
「姉と呼んでもいい?」
血の順番では彼女が姉だった。
「すぐには慣れないかも」
「私も」
「でも、四通で終わるのは嫌」
その夜、二人で父への手紙を書いた。
〈あなたが隠した姉妹は、今日会いました〉
〈許したわけではありません〉
〈それでも、私たちは互いを知らないままにはしません〉
手紙は墓前へ置かず、二人で半分ずつ持った。
父に届けるためではない。
父の沈黙の続きに、私たち自身の言葉を書くためだった。