図書委員は声を張らない

体育館では応援練習が始まっていた。

僕は太鼓係なのに、図書室で返却本を棚へ戻していた。耳を痛めて大きな音を止められ、先生に「静かな仕事をしろ」と回されたのだ。

図書委員の彼女は、僕が本を逆向きに置くたび直した。

「背表紙を外へ」

「分かってる」

「三回目」

声が小さい。聞き返すと、さらに小さくなる。体育祭の応援なら、隣にいても存在に気づかなかったと思う。

僕は静けさが苦手だった。音がないと、自分の失敗ばかり思い出す。太鼓を叩けないことも、応援団の仲間が別の担当を決めていることも。

「図書室って、退屈じゃない?」

彼女は返却台から一冊取った。

「静かだから、退屈とは限らない」

「でも何も起きない」

その瞬間、上の棚から本が三冊落ちた。僕が乱暴に押し込んだからだった。彼女は無言でこちらを見た。

「今のは起きた」

口元だけ笑っていた。

それから僕は、放課後の返却作業を手伝うようになった。耳は治っていたが、太鼓係には戻らなかった。本を運ぶ音、ページをめくる音、椅子を引く音。図書室にも小さな音がいくつもあると知った。

体育祭前日、応援団が図書室へ押しかけた。

「太鼓、代役が熱出した。戻ってくれ」

僕は迷った。叩きたくないわけではない。ただ、一度外れた場所へ戻るのが怖かった。

彼女はカウンターで貸出印を押していた。こちらを見ずに言った。

「本は逃げないよ」

「僕がいなくても大丈夫?」

「最初から一人でやってた」

少し寂しい言い方だった。

体育祭当日、僕は太鼓を叩いた。音は校庭いっぱいに広がり、耳ではなく胸に響いた。応援が終わったあと、図書室へ走った。

閉館前の室内には、彼女一人しかいなかった。

「聞こえた?」

「図書室まで」

「うるさかった?」

彼女は首を振った。

「今日は、あの音がないと静かすぎた」

僕は返却台の本を持ち上げた。今度は背表紙をすべて外へ向けた。

彼女が小さく拍手した。

「それ、応援?」

「指導」

声は相変わらず小さかった。でも僕には、体育館のどんな掛け声よりはっきり聞こえた。

次の図書委員募集で、僕は名前を書いた。志望理由の欄には、『静かな場所にも、音を待つ人がいるから』と書いた。彼女は赤ペンで、『声を張らなくても届くこともある』と付け足した。