土の中で飲む壺
砂都エシュラの苗木園では、朝に水をやった果樹が夕方には萎れていた。
井戸は一日二百桶まで。園主は水運びの奴隷を増やしたが、地面へ撒いた水の半分は白い湯気になり、根へ届く前に消える。三日後の隊商へ苗を百本売れなければ、園は債権商人に渡る。
異界人の小夜井汐音は、売り物にならない素焼き壺を二十個集めた。
「割れた器で水を運ぶのか」
債権商人ドレスクは笑う。汐音が選んだのは、釉薬をかけていない水の染みる壺だった。
苗の根元へ壺を首だけ残して埋め、水を満たし、蓋をする。地表へは一滴も撒かない。
同じ大きさの苗を十本ずつ分け、片方には朝夕二桶、壺の側には朝一桶だけを使った。昼鐘が鳴るころ、表面だけ見れば壺の畑も乾いている。
「ほら、水をやっていないのと同じだ」
ドレスクが一本を抜こうとした。汐音は隣の土を細い匙で掘る。表面から指二本分は乾いていたが、根の深さでは黒い土がまとまり、握ると形を保った。壺の水が細かな穴から、乾いた土へ必要な分だけ染み出していた。
夕方、撒き水区画の葉は七本が垂れた。壺区画は十本すべてが立ち、葉先に冷たい張りがある。壺の中にはまだ三分の一の水が残っていた。
撒き水の通路には乾いた白い塩筋が残り、根へ届かなかった水の跡まで見えた。壺区画には流出の筋が一本もない。
水量札を数える。従来区画は一日二十桶。壺区画は十桶で、翌朝まで追加不要。しかも通路へ流れた水はゼロだった。
隊商の買い手は苗を一本ずつ曲げ、根鉢の湿りを確かめた。百本をこの方法で維持すれば、必要な水は従来の半分以下。空いた百桶を、別の畑へ回せる。
ドレスクは「壺代がかかる」と食い下がったが、園の裏には焼き損じが三百個積まれている。汐音は一個を軽く叩いた。水を滲ませる程度のひびなら、むしろ都合がいい。
買い手は債権書の買取欄へ署名し、その上から園主の名前を消さなかった。
「苗百本と、埋め壺三百個を買う。汐音には砂都の節水農園を任せる」
井戸番が、初めて正午前に汲み上げを止めた。