夕焼けの番号

【制作進行チャット 最終話納品まで十四日】

09:08 真壁部長

鴇田さん、また色修正? 夕焼けなんてプリセット三番でいい。

09:11 鴇田映里

三番だと主人公の瞳と背景が同じ明度になり、振り返る芝居が埋もれます。カット318だけ彩度を落とします。

09:13 真壁部長

一コマに何時間使うつもり? 給料泥棒は今日で終わり。データを置いて退職手続きを。

映里は「承知しました」とだけ返し、個人ブラシを消して席を立った。

【最終話納品まで九日】

夕焼けはプリセット三番に統一された。だが前のカットと雲の位置が繋がらず、主人公の頬だけが点滅した。修正担当は、映里がレンズごとに変えていた色収差の規則を知らなかった。

【納品まで三日】

海外配信用の映像から光過敏への警告対象となる明滅が検出された。全話再検査。納品延期。配信会社から違約金の通知。

真壁は会議で言った。

「鴇田が資料を残さなかったせいだ」

しかし共有サーバには、映里の色設計表が四年分残っていた。真壁が「細かすぎる」と閲覧権限を閉じていただけだった。

【三か月後】

映里は小さな映像会社、薄明スタジオへ移った。予算の少ない短編映画で、主人公が嘘をつくたび背景の赤を一段だけ冷たくした。観客は理由に気づかなくても、最後の告白で胸を掴まれた。

映画祭の授賞式で、薄明スタジオは映像表現賞を受賞した。

【翌朝 海外配信会社との商談】

真壁は、自社が制作体制を立て直したと英語で説明した。相手の画面には、授賞式帰りの映里も映っていた。

担当者が契約書の共有画面を開く。

「次の長編シリーズは薄明スタジオへ発注します。色彩監督は鴇田映里さんです」

真壁が笑顔を固めた。

「彼女は元々、弊社の補助スタッフで――」

「実績一覧を確認しました」

担当者は旧会社の提案書から映里の受賞映像を削除し、取引停止の欄へ印を付けた。

「私たちはプリセット三番と仕事をするのではありません」

チャット画面に、映里を色彩監督へ任命する通知が表示された。