夜明けを回る布団

名取朝路がみどりの部屋へ着くと、廊下まで水が流れていた。

洗濯機の排水ホースが外れ、洗面所に置いていた布団まで濡れている。みどりは朝路が十五歳から三年間暮らした養育家庭の母親だった。今は一人暮らしで、腰を痛めている。

「管理会社には?」

「床は拭いた。布団は捨てる」

「冬に何で寝るんだよ」

「こたつ」

朝路は濡れた布団を車へ積み、近所のコインランドリーへ運んだ。午前四時、店内には大型乾燥機の回る音だけがある。

二人で布団を押し込み、百円玉を何枚も入れた。みどりは財布の小銭を数え、朝路は両替機へ千円札を入れた。二人とも相手の支払った分を覚えている顔をしたが、精算の話はしなかった。みどりはベンチの端、朝路は反対の端へ座る。

十八の誕生日、朝路は「もう十分世話になった」と言って家を出た。本当は、実母が迎えに来ると聞き、みどりがほっとした顔に見えたからだ。迎えは三か月で終わり、朝路はそれを知らせなかった。

乾燥機の窓で、布団が大きく持ち上がっては落ちる。

「実母さん、元気?」

「知らない」

「そう」

それ以上、みどりは聞かなかった。残り時間がゼロになっても中は湿っていた。朝路がもう一度硬貨を入れると、みどりが止める。

「高いよ」

「こたつで寝て病院に行く方が高い」

二巡目の間、朝路は排水ホースを固定する金具を検索した。みどりは画面を覗き、「昔からそういうのだけ早い」と笑った。

夜明け前、乾いた布団を部屋へ戻した。洗濯機の裏へ金具を付け、ホースを引いても抜けないことを確かめる。

みどりは押し入れから来客用の薄い毛布を出した。

「今日はもう運転しない方がいい」

「布団、一組しか乾かしてない」

「朝路が昔使ってた敷布団、上段にある」

ないと思っていた。名前の書かれた収納袋も、まだ残っていた。

朝路は返事の代わりに、濡れた雑巾を洗濯機へ入れた。予約ボタンを押し、終了時刻を午前九時に合わせる。

「起きたら干す」

「誰が?」

「俺が」

スマートフォンの充電器を、昔と同じ枕元のコンセントへ差した。帰るための地図は閉じ、目覚ましだけを九時に設定した。