夫婦割引を使った英雄
討伐祝賀会の中央で、剣士バルドは治癒師エルシアの肩から手を払いのけた。
「もう妻面するな。俺が愛しているのはリュネだ。おまえは回復魔法しか能がないくせに、英雄の俺を束縛した」
吟遊詩人リュネが彼の胸へ寄り添う。二人は遠征中から同じ天幕で眠っていた。それを指摘したエルシアは、仲間たちの前で「嫉妬に狂った役立たず」と笑われた。今朝には共同金庫から締め出され、遠征中に使った回復薬代まで「捨てられる妻の借金」として押しつけられている。祝賀会の仲間たちは、バルドが言う英雄の取り分を当然だと思い、杯を鳴らしていた。
バルドは離縁届を卓上へ叩きつけた。
「財産も討伐報酬も俺がもらう。夫婦契約には、英雄側が多く受け取れると書いてある」
「では、契約を読み上げてもらいましょう」
エルシアがギルド長へ差し出すと、バルドは勝ち誇って契約石へ手を置いた。署名者本人の魔力でなければ開かないためだ。
青い文字が空中へ並ぶ。
《共同財産の優先権は、婚姻中に不貞を行わなかった側へ移る》
続いて《契約を悪用して第三者を配偶者と偽った場合、共有財産への請求権を失う》という一文も現れた。
バルドの顔が固まった。彼は契約時、「妻が浮気したら一銅貨も渡したくない」と、この条項を自分で追加していた。
「俺は不貞など――」
言い終わる前に契約石が赤く光った。夫婦割引を利用した宿泊記録が次々と表示される。バルドは遠征費を浮かせるため、リュネを妻として登録していた。宿帳には二人の魔力署名、寝台一台の指定、そして《結婚記念旅行》の申告まで残っている。
「安くなるから書いただけだ!」
「妻ではない女性を妻と偽ったのですね」
ギルド長の一言で、今度は福利厚生詐欺まで確定した。
エルシアは離縁届へ署名し、共有鞄から自分の杖だけを取り出した。討伐報酬の大半を生んだ治癒契約も、彼女の名義である。
契約石が最終判定を告げ、ギルド長は黒い巻物を開いた。
「剣士バルドおよび吟遊詩人リュネに対する、永久除名命令を読み上げる」