安全索に残った歯形
竜騎士団の訓練塔で、見習いのエルネ・サーヴァは安全索を見つめていた。
半分まで刃が入っている。
「怖いなら降りろよ、落ちこぼれ」
上級見習いのガドラン・ベルは仲間たちの前で笑い、エルネの背を塔の縁へ押した。昨日は鞍を隠され、一昨日は竜の餌に泥を混ぜられた。告発した別の見習いは「臆病者」の札を首に下げられ、翌週に辞めた。今日は落下訓練だ。
「この索は切れています」
「また俺たちのせいにするのか? 自分で切って訓練を逃げる気だろ」
ガドランは教官を呼び、自信満々に安全確認書を差し出した。
「俺が全員分を点検しました。異常なしです。署名もあります」
羊皮紙には確かに、ガドランの署名と『第七索、損傷なし』の文字がある。
教官の目がエルネへ向く。
「説明は」
「索を竜舎へ持っていきます」
エルネは切れ目を若い飛竜に嗅がせた。飛竜は一度鼻を鳴らし、ガドランの腰に下がる短剣へ噛みつく。刃には同じ麻繊維が詰まり、柄にはガドランが焦って引き抜いた歯形まで残っていた。
「偶然だ! 昨日、別の縄を切った」
「それなら、確認書が虚偽になります」
エルネが安全索の金具を押すと、封入された記録晶が光った。点検者が金具を閉めた瞬間から、索への接触を自動記録する新型だ。
映像には、ガドランが署名後に短剣を取り出し、仲間へ「落ちれば二度と告発できない」と笑う姿が映っていた。さらに、切断をためらった見習いの頬を殴り、口止めを命じる場面も続く。彼は新型装備だと知らず、自分で確認書に署名し、自分で記録を開始させたのだ。
塔の上空から団長の黒竜が降りる。団長は映像を最後まで見て、憲兵へ顎を引いた。
ガドランは青ざめ、エルネへ手を伸ばす。
「訓練の冗談だ。落ちても竜が拾う」
「拾えなかった時の責任を、私の恐怖心にするつもりでしたね」
エルネはその手を避け、安全索を教官へ渡した。
団長の声が塔内へ響く。
「ガドラン・ベル。殺人未遂および継続的虐待の容疑で、拘束を命ずる」