家事代行株式会社_兄妹支店

家事代行株式会社・兄妹支店

母が十二時間勤務から帰る土曜日、三人きょうだいは会社を設立した。

社名は〈母を絶対に働かせない株式会社〉

社長は高校生の姉。

専務は中学生の兄。

新入社員は小学二年の弟。給料はアイス一本。

午後三時、業務開始。

社長は洗濯を担当した。白いシャツと赤い靴下を分ける知識はあったが、ポケットのティッシュ確認を忘れた。洗濯機を開けると、雪が降っていた。

専務は掃除機を担当した。吸引力を確かめるため床の菓子くずを吸い、調子に乗って弟の靴下まで吸い込んだ。救出作業に二十分。

新入社員は米を研いだ。

研ぎ汁を捨てるたび、米も少しずつ流した。

炊飯器に残ったのは、予定の七割。

午後五時、会社は倒産寸前だった。

「普通にやったほうが汚れてなかった」と専務。

「お母さん、帰ってきたら怒るかな」と新入社員。

社長は白い紙くずまみれのシャツを見て、泣きたくなった。

それでも三人は、できるところまで直した。洗濯物を振り、掃除機の袋を開け、減った米へ冷凍ご飯を足した。夕食は形の崩れたオムライスになった。

午後七時、母が帰宅した。

玄関には左右ばらばらの靴。

廊下には掃除機の部品。

食卓には、ケチャップで〈おつかれ〉と書いた巨大なオムライス。

三人は横一列に並んだ。

「先に謝ります」

「事故が三件」

「アイスはください」

母は台所と洗濯物を見回した。

そして、笑いながら泣いた。

「完璧じゃないけど、今日の私は何もしなくていいの?」

社長が胸を張った。

「会社の規則です」

母はソファへ座り、オムライスを食べた。焦げた部分も、米の少ない部分も、全部おいしいと言った。

食後、三人が皿を運ぼうとすると、母も立った。

「規則違反!」

「今日は教えるだけ。明日から会社が続くように」

その夜、四人で洗濯表示を覚え、掃除機を組み直し、正しい米の研ぎ方を練習した。

〈母を絶対に働かせない株式会社〉は、一日で社名を変えた。

新社名は〈誰か一人だけに働かせない株式会社〉

倒産せず、今も家の中で営業している。